私の存在証明@-6
「……わかっていたことじゃない」
私は誰にともなく呟いた。
家から飛び出し五分程歩くと、心地良い風が吹く土手沿いの道に着いた。
時折吹く強風に髪が舞い上がるのも気に留めず、佇む。
何がしたいわけでもない。ただあの場に居たくない、それだけだった。
「おいっ」
不意に声を掛けられ振り返れば、現れたのは息を切らした奏太だった。
「追いかけてくれたんだ」
「別にいいだろ」
「まぁね」
その場を取り繕うように笑ってみる、同時に奏太は顔を顰めた。
「無理して笑うなよ、辛いくせに」
「辛いけど慣れた、かな」
「あんな悲しい表情しといてよく言うよ」
呆れた声、けれどその表情には私の気遣いを感じる。
奏太は優しい人間だ。
私なんかのことを気に留めてくれる。だけど奏太が私のことで心を痛める必要なんてない。
私はいない人間。
忘却の彼方へ消し去ればいい。
「私のことは気にしなくていいよ。私のことは忘れて、いなかったことにして三人家族仲良くしなよ」
この感情を悟られないようになるべく笑顔を作り話す。
「あのなぁ……」
「私の存在は証明されない。私は此処にいないんだよ」
私は今、上手く笑えているだろうか。
「あぁくそっ!あんたは此処にいる!」
周りの人間になどお構いなしに、叫ぶように奏太は大きな声を出した。
散歩をしていた人の視線など気にせずに、私を指差す。
「平田春香は此処にいる!俺が証明してやるよ」
そう言ったきり、そっぽを向いてしまった奏太。真っ赤になった耳朶が、奏太の気持ち教えてくれる。
何か言わなければと思ったけれど、それは叶わなかった。
どんどん歪になっていく視界で、焦った顔の奏太が見えた。
『此処にいる』
その一言が途方もなく嬉しくて。
私は溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
続