私の存在証明@-5
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俊博さんと奏太に会ってから数日後。
休日の朝から騒々しい音で目が醒めた。
窓から外を覗けば俊博さんと奏太と、よくCMで見掛ける名の知れた引越会社のトラックが見える。
入学式の時期まであと少し、早めに我が家に引っ越して馴れておこうという算段なんだろう。
「好きな部屋使って良いわよ。二階の部屋は誰も使ってないから」
階段が軋み誰かが二階へと上がる、それと同時に聞こえるお母さんの声。
私の部屋のドアが開き、現れたのは段ボールを抱えた奏太だった。
誰も居ない筈の二階の部屋にいる私に、一瞬目を見開く。けれどすぐに冷静に部屋を見回す。
ため息をつく動作は、この部屋が私の部屋だと理解したようだ。
「“誰も使ってない”……ね」
「言ったじゃない。お母さんの中に私は存在しないって」
「それでいいのかよ」
軽い調子で言ったことが癪に触ったのか、奏太は語尾を荒げた。
「良いんだよ」
「そういう自己犠牲やめろよ。なんか腹立つ。自分が我慢すればいいなんて言うつもりかよ」
「……そうかもね」
自然と自嘲気味の笑いが零れ、奏太は何か言いたげだったけれど、お母さんの声にそれは阻まれる。
「奏太君どうしたの?いい部屋あった?」
「……いえ、なんでもないです」
「あら、敬語じゃなくていいわよ。家族になるんだし」
幼少の記憶と寸分も違わぬ笑顔で、お母さんは笑った。
私にとってその笑顔は久しぶりで、私に向けられてはいないとはいえ、私の心を浮つかせるのには充分だった。
「私ね、家族いないから俊博さんと奏太君が来てくれて凄く嬉しいの。去年私の母が亡くなって一人だったから、だから仲良くしようね。これからは三人家族よ」
饒舌に語るその言葉は、わかっていた筈なのに居たたまれない感情を生む。
奏太が複雑な表情で私を見つめているのが心苦しくて、気がつけばお母さんの横をすり抜けて外へと飛び出していた。