ある季節の物語(春)-5
私は窓の傍に立つと、美穂のマンションの部屋に視線を注ぐ。
見えた…蜜色の灯りの中で、縛られて床に頭を擦りつけるように伏せ、その白い尻を高々とか
かげた美穂…そしてその傍には、鞭を手にした全裸の男…
ときどき、男はこちらの方を振り向くようなしぐさをした。黒い胸毛に覆われた胸、でっぷり
と弛んだ腹肉…
…やめてくれ…たのむから…
僕は震えるような声で電話に向かって叫ぶ。
…あなたに言われる筋合いはないですよ…私の妻ですよ…どうしようと私の勝手だ…それに、
美穂は悦んでいる…私のこの鞭でぶたれることをね…
わずか三ヶ月だった…美穂とその男が、そのマンションに住んでいたのは… そして、どこか
に引っ越していった。
そして、一週間後、突然の美穂からの手紙だった。
…ごめんなさい…あいさつもしないでいなくなったことを…
実は、あの男は私の夫ではないの…ただの行きずりの男…お金で買ったの…ほんとはあなたが、
そこに住んでいることを知っていて、あのマンションに私はやってきたの…
あの頃、あなたと別れてからも、私はあなたのことがずっと忘れられなかった。私はどれだけ
あなたのことを思い、苦しんだことか…あなたは知らない。
あの女とあなたの婚約…私は激しい嫉妬と失意に身を切られる思いだった。
あのころの私たちは、すでに醒めた体をお互いに重ね合っていた。あのとき、もうあなたは私
の体に何の魅力も感じてはいなかったのかもしれない…。
そして私自身の体も、あなたに抱かれることでもう熱を帯びることがなくなっていた…。
でも、私はあなたを愛していた…
私から離れていくあなた…その心のもどかしさ…
そしてあなたの体に疼きを忘れ、涸れたような私の体…残されたことは、誰かが私を縛りつけ、
嫌がる私を鞭打ち、犯される姿をあなたに見せることでしか、おそらくあなたが私の方を振り向
いてくれることはない…
そんなことさえ思っていた…。
あなたと再会したあの夜…あなたは私の体を優しく抱いてくれた。
でも、やはり私の体の奥が潤んでくることはなかった…乾いた私の体に気がつくことなく、
あなたはあのときと同じように、あなただけが無責任に尽き果てた…。つるりとしたぬるい精液
をただ私の中に垂れ流すだけだった。
澱んだ水のような薄い精液…耐えられないほどあなたの精液は軽かった…。
あのころ、あなたはほんとうに私を愛してくれたのかしら…あなたは、私という女の性がどう
いうものか知らない…。
あなたは、あの電話の中の、私の心と体の奥から発するほんとうの声を聞いてくれたかしら…
そしてあの男の恥辱に満ちた淫戯の中で潤み始めた私の肉襞が、内側からじりじりと蝋燭で
炙られ、どくどくと脈打つような痺楽の悦びに満ち溢れていく…その私の声に、あなたは深い嫉
妬と欲情を感じてくれたのかしら…
きっとまた、あなたが私のもとに戻ってきてくれることを…信じています。