Stealth Last-9
「あれぇ?こっちかなぁ」
男は、さも、上に居るヤツらに聞こえるように声をあげると、黒い箱を持って配管の並ぶ中をうろついて行く。
(この2本の間だから…これだな…)
男が見つけたのは、幅2メートルはあろうコンクリートの躯体で、それは地下を突き抜け、地上数十メートルに達するモノだった。
男は躯体に黒い箱を取り付けると、箱のスイッチを押した。
(…さて…あと5個か…)
その後も声をあげながら、男は箱を取り付けていく。
「ああーっ!これだ、これだ」
すべての箱を取り付け終えた男は、最後に詰まりの原因を取り除いた。
配管から勢い良く水の流れる音がする。男は満足気な顔をするとハシゴを登った。
「どうも、ありがとうございました!」
男は受付で退社報告を済ませて帰っていった。そのクルマは、朝、播磨重工ビルの向かい側に停まっていた営業車にそっくりだった。
深夜。
比較的大通りに面した播磨重工ビル。昼間は交通量の多さから結構な賑わいを見せるが、深夜になるとめっきりと減ってしまう。
そんな時、外部から電話が入った。
「…いったい誰だ…こんな夜中に…」
警備員はぶつぶつ文句を言いながら受話器を取った。深夜の外部電話は、すべて警備部を通す決まりだったからだ。
「はい、播磨重工研究所ビル」
警備員はぶっきらぼうに対応した。すると、聞こえてきたのは肉声でなく電子音のように加工された声だった。
「…いいか、そのビルに爆弾を仕掛けた。5分以内に社員全員を避難させろ」
抑揚の無い電子の声。警備員はイタズラ電話だと思った。
「いい加減な事を言うなよ!警察呼ぶぞ」
仮眠中に起こされた怒りの矛先を受話器のむこうにぶつけると、相手は静かになった。
(思った通りだ!何度か怒鳴ってやれば、大人しくなるだろう)
警備員はそう思った。
その時だ。再び受話器から声が聞こえた。
「なるほど、サンプルが必要か。だったら、そこから通りの向こうを見ていろ…」
電話が切れた。
(何を言ってるんだか…)
警備員は受話器を戻すと、警備室から見える通りの向こうを眺めた。