Stealth Last-8
朝9時。播磨重工ビルの面した通りから向かい側にクルマが停まっている。
外観からは、そこらへんの営業車のようだが、天井に設けられた巨大な指向性アンテナだけが、異様さを表していた。
運転席には、男が背もたれを倒して寝そべっている。
「…!」
男が突然、身を起こした。その目は宙を泳ぎ、耳に付けたイヤホンの音に集中しているようだ。
「…ヨシ…」
男の目に閃きが宿る。ポケットから携帯を取り出すと、検索サイトを開く。
「…巽サービス…と…」
その顔は、微笑みに溢れていた。
「すいません、遅くなりました」
美奈が連絡して30分ほど経った9時半、業者がビル受付に現れた。
「アレッ?」
受付ホールの清掃作業中だった美奈は、業者の顔を見て頭を傾げる。
「…どうしたんだい?」
美奈の変化を感じ取った広野が訊いた。
「…あの業者さん、何処かで見たような…」
ガッチリとした体型に水色の作業服姿。長い髪で作業帽を真深に被っている。
「いつもの業者さんじゃないね。私も初めて見る顔だよ」
広野の答えに美奈は、
「じゃあ、誰かと間違えてるんですね!」
「しっかりおしよ。アンタ、今日は何だか変だよ」
「は、はい。すいません…」
釈然としない気持ちを抑えて清掃作業にむかった。
「つまり、4階から下の階にある雑排水ラインが詰まってるんですね?」
業者は2階にあるメンテナンス課で状況確認をすると、ビルの図面をチェックし始めた。
「この系統図からすると、4階以下と以上で分かれてますから、地下の排水ライン…おそらくトラップが怪しいですね」
業者は、警備員とメンテナンス課の社員に付き添われ、エレベーターで地下3階に降りると、排水設備へと続くハシゴを降りていく。
だが、警備員とメンテナンス課の社員は、ハシゴの上から薄暗い作業風景を眺めているだけだった。
(…図面は頭に叩き込んである…)
業者である男が大きめの工具箱を開いて中フタを取った。そこには、タバコの箱をひと回り大きくしたほどの黒い箱が6つ入っていた。