Stealth Last-7
「おまえのクルマを、もう一度調べさせてくれ」
佐倉の言葉に恭一は、息を吐いて口元を緩める。
「…お断りしますよ」
「なにっ!」
佐倉の顔がみるみる赤く染まり眉がつり上った。対する恭一は冷徹な如く、嘲笑を含んだ目をしている。
「佐倉さん。令状は持って来たんだろうね?」
佐倉が面のあたりにしたのは、公安の捜査官としての姿だった。
「アンタ、いい加減にしないと刑事として働けなくなるぞ」
その嘲るような目を見ている佐倉の背中に冷たいモノが走る。
「…と、言いたいところですが」
恭一は一変、先ほどのにこやかな表情をすると、
「クルマのカギです。私が戻るまで好きに調べてもらって構いません。
但し、20以上昔のクルマですから取り扱いには注意して下さいね」
佐倉にキーを渡し、カートを引いて通りへと歩きだした。
無言でキーを受け取った佐倉は、その後姿をただジッと見つめていた。
早朝の掃除を終えた掃除婦達は、中休みと称して30分ほど休憩を取る。
朝ごはんを食べたり、お茶を飲んだり自由だ。美奈は焼きそばパンを食べていた。
そんな時、詰所の電話が鳴った。
「あっ!私、出ますから」
美奈はイスから立ち上がると受話器を取った。相手は総務課からで、内容は給湯室の流しが詰まったとの事だった。
美奈は、総務課の誤電話だと分かった。彼女達、掃除婦はビルの清掃だけで設備に関しては担当外だからだ。
そのことを伝えようとするよりも早く、総務課の女性は“お願いしますね”と言うと電話を切ってしまった。
「あっ!あの、ちょっと!」
彼女の慌てぶりを見た仲間達から声が掛かる。美奈は、憤慨した様子で電話の内容を語った。
「…まったく!私達とメンテナンス課を間違うなんて」
「まあまあ、そう怒んないでさ、そこの業者さんに連絡してやりな」
広野は、電話口の壁に貼られた電話番号を指差した。
「でも良いんですか?私達が業者さんなんか呼んで」
「アンタは初めてだから知らないだろうが、間違い電話なんてしょっちゅうさ。
それに、メンテナンス課も必ず業者を呼ぶんだ。後で連絡入れりゃ同じだよ」
広野達の態度からすると、もう慣れっこのようだ。
「え…と、巽サービスですね」
美奈は、業者に連絡を取った後、メンテナンス課にその旨を伝えてやった。