Stealth Last-6
「タケさん。私、給湯室の方やりますから」
美奈は、そう言って廊下の真ん中辺りにある給湯室へと向かおうとする。
「ちょいとお待ち!」
突然、広野が大きな声で彼女を止めた。
(…ヤバい…変なのがバレたんだ…)
美奈は、恐る々後をむいた。
「な、何?タケさん」
「ゴミ収集の台車とゾウキン持ってかないと」
広野は手ぶらで行こうとするのを止めたのだ。美奈は、慌てて廊下を戻り台車とゾウキンを取った。
「…どうしたんだい?先刻から。段取り忘れるなんて」
「す、すいません!ちょっと考え事してたんで」
「しっかりおしよ…」
再び給湯室へ行くと、いつものように清掃を始める。広野はしばらく美奈の様子を見ていたが問題無いと分かり、
「あたしゃ、奥の事務所からやってるから」
そう言って給湯室を後にした。
「フーッ…何とかごまかせた」
安堵の息を大きく吐き、美奈は手袋を取った。
そして、ポケットからカプセルを取り出すと、流しのディスポーザーを外して剥き出しになった管の中に落とした。
(…終わった…)
頼まれ事を終え、美奈は再び安堵の息を吐いた。そして、広野の待つ奥へと小走りで向かった。
朝。恭一がオフィスに向かうと、すでに佐倉達のクルマが停まっていた。
(…うっとおしいヤツだ)
いつものようにクルマを停める恭一を見た佐倉は、慌ててドアを開けた。
「おまえ、そのナリ…何処に行くつもりだ?」
近寄る佐倉。恭一の手には小さめの旅行カートが握られていた。
「寒くなってきたんで温かな所でもと思い立ちましてね。ちょっとした癒しにでもって」
嬉しそうに答える恭一。だが、佐倉は、
「おまえが癒しだと!何よりアクションを好むおまえが?」
そう言うと声をあげて笑いだした。
「…佐倉さん、結構失礼なんですね…」
「いや、すまん。しかし、おまえの口から“癒し”なんて言葉を聞くと、ブラック・ジョークこの上無いな」
再び笑いだす佐倉。先ほどまでの嬉しげな表情は何処へやら、恭一はムッとした顔をした。
「で?今日は何です。先刻も言ったように、旅行に出ますから手短かに願いますよ」
ようやく落ち着きを取り戻した佐倉は、いつもの真剣な眼差しを恭一に向けた。