Stealth Last-5
「急にどうしちゃったんです!?」
美奈は突然、自宅に現れた恭一を見てすっとんきょうな声をあげた。
「いよいよ仕事なので、おまえに伝えに来たんだ」
「何をやるんです?」
美奈が不安気な顔を見せる。
「ここではマズいな…」
恭一は、美奈に外に出るよう言った。彼女は一瞬、躊躇するが、
「お母さ〜ん!私、ちょっと出掛けてくるから」
美奈は玄関を後にすると、ルノー4に乗り込んだ。
「で?私は何をやるんです」
「これを4階給湯室にある流しの中に放り込んでくれ」
そう言って恭一が取り出したのは、小さなビニール袋に入ったカプセル状のモノだった。
「これって何なんです?」
不思議なモノでも見るように、美奈はビニール袋をフロントグラスにかざす。
「防水型の盗聴器だ。流しに入れれば、途中で引っ掛かるようになっている」
「へえ〜、こんな小っちゃなヤツが…」
「それを清掃の時間に仕掛けてくれ」
「分かりました」
美奈は、カプセルを受け取ると、助手席のドアを開けた。
「どうします?母が待ってますけど」
話では、恭一が来ると聞いた母親が料理を作って待っているそうだ。
だが、恭一は困ったような顔で、
「今日はやめておこう。いずれ日を改めて伺うからと伝えておいてくれ」
「……?」
走り去るクルマを見つめ、美奈は恭一の言った意味を理解出来なかった。
一方恭一は、バッグミラーに映る彼女へ向かって呟いた。
「…すまんな…」
翌朝。播磨重工ビル。
「それじゃ宜しくお願いします」
朝礼の後、美奈はすぐに掃除道具を持つと広野に付いていく。
掃除婦の仕事に就いてひと月足らず。今では随分板に付いたようで、テキパキと作業をこなしていく。
そんな美奈の姿に、広野は目を細めていた。
「ところでさ。アンタ、会社に帰んのかい?」
「エッ?」
「エッじゃないだろう。もうすぐひと月じゃないか」
広野に言われるまで、美奈自身忘れていた。彼女は、研修として雇われていたからだ。
「…そ、それは、本社が決めるんで、私にはまだ…」
何とかごまかす美奈は、“次行ってますから”と掃除道具を持って階段を上がって行った。
「どうしたんだい…?」
あまりの慌て様に、広野はポカンとして美奈の消えた階段を見つめていた。
(はあ…危なかった…)
美奈は掃除道具を廊下の隅に置いた。いよいよ目的の4階だ。遅れて広野も上がって来た。