Stealth Last-4
「…とにかく傑出していた。まだ30前と歳若いのに、ベテラン捜査官でも掴めない情報を得ては諜報員を捕えていた。
おそらく、独自のネットワークを持ってたんだろう。
ヤツが捕えたのは北の工作員や中国、ロシアの諜報員ばかりじゃない。お互いが友好国のはずの韓国や台湾、アメリカの諜報員もいたそうだ」
「何故、そんな人を佐倉さんがご存知なんです?」
「現場で何度か会ったんだ。迷宮入りした外国人殺害や大使館員殺害事件でな。
そのほとんどは、ヤツがマークしていたスパイだったんだ」
佐倉の話に、宮内は首を振り振り、
「ボクらが知らない世界じゃ、そんな事があってるんですか?」
「ああ、それが国益をもたらすと分かれば、たとえ友好国の情報や技術であっても、秘密理に盗み出すのが他国の考えだ。まして敵対国ならなおさらだ。
社民党の代議士みたいに“エセ平和主義者”を気取ってすべてが話し合いで済むハズはないんだ」
佐倉の言葉は続く。
「しかし、ヤツが諜報員を捕える度に外務省から横槍が入った。そして、政治的判断というやつで諜報員達は釈放されたらしい。
松嶋はそれにイヤ気がさして公安を辞めたそうだ…」
佐倉の話を聞いた宮内は、深く息を吐いた。
「…その話が事実とすれば、やるせないですねえ…」
「ある意味仕方ないだろう。外務省の奴らは対局的に物事をみる。日本の弱腰外交じゃ、松嶋のようにアクティブな活動を歓迎しないさ」
佐倉は前方を見据えながら、
「だから今の日本じゃスパイの天国になっている。捕まりもしないんだからな…」
クルマは、警察署に向かって走って行った。
夜。恭一は、五島に連絡を取った。昼間の結果を伝えるために。
「…そうだ。李氏との取引は上手くいった。ブツは明日、おまえの元に届けられる」
五島は、ハンダに基板や電気部品に囲まれた部屋で、相づちだけを打っていた。
「こっちも順調だ。後、2日あれば完成する。それよりアッチは?」
「おまえのが完成してからと考えている。ギリギリまで伝えない方が良いだろう。
それに、オレの周りにゃ佐倉がマークしてるからな」
「分かった。じゃあ3日後に…」
電話を切った恭一は、オフィスの窓際に立った。閑散とした通りから、繁華街のイルミネーションがきらびやかに見える。
オペレーションの確かな手応えに、胸中は先日見た夕日の時とは明らかに変わっていた。
それから2日後の昼、五島から“完成した”と連絡が入った。