Stealth Last-3
「やあ、佐倉さん。こんなところで何やってるんです?」
にこやかに話掛ける恭一。佐倉はクルマのウィンドウを下げた。その表情は対象的に真剣そのものだ。
「おまえ、何処に行ってた?」
「何処って、中華街ですよ」
「何をしに?」
「何って、メシを食いに決まってるでしょう。それが何か?」
「嘘つけ!」
佐倉は吐き捨てるように言った。
「中華街に住む李海環に会いに行ったんだろう!」
恭一はワイパーのように両手を振った。
「じ、冗談じゃない。奴らを追ってたオレが会える訳ないでしょう。すぐに殺されちまいますよ」
佐倉は眉間にシワを寄せた。
「いいか松嶋。今までのコソ泥まがいの事ならオレ達も出歯ったりしない。今度の件、おまえが関わってるのは分かってるんだ」
それは、松嶋を知る佐倉の“懇願”だった。
恭一は、ふーっと息を吐いて佐倉を見た。嘲るような目で。
「何の物証も無いクセにひとりの人間を追い回す。3課ってなあ、余程ヒマな部署なんですね」
「アンタ!いくら佐倉さんの知り合いだからって、なんて事を言うんだ!」
2人の会話を聞いていた宮内が、思わず恭一に怒鳴った。
だが、恭一はまったく意に介した様子をみせず、
「佐倉さん。先日、言いましたよね。次に来る時は令状を持って来てくれと。あまりしつこいと訴えますよ」
恭一は、そう言うとビルの中へと消えた。
「…今日はもういいだろう。出してくれ」
苦々しい顔で宮内に伝える佐倉。彼は軽く頷くと、クルマを走らせた。
「あの松嶋って人…佐倉さんが昔パクったんですか?」
帰りの道すがら宮内が訊いた。途端に佐倉は唖然とした顔をむける。
「…おまえ、知らんのか?」
「ええ。佐倉さんの知り合いって以外は」
佐倉は、シートの背もたれに身体を預けて前方を見つめた。
「…あいつは、元公安の外事だったんだ」
「公安の外事って…」
「そう。国外の諜報員や工作員を捕える捜査官だ。特にヤツはアジア地区でのエキスパートだった」
宮内の表情がみるみる変わった。
「なんでそんな人が?」
「アイツの場合、公安に愛想を尽かしたと言うのが正しいかな」
「愛想を尽かした?」
佐倉は頷くと、独り言のように語り始めた。