Stealth Last-13
「まず、この部屋だが防音処理されている。それから、このフロア全面が電波を遮断する事。アンタに依頼を受けた初日、電話しようとした時、携帯が圏外を表してたよ。
最後はアンタが居る社長室の電話だ。スクランブラー(盗聴防止機)の付いた電話など、諜報機関の人間以外にゃいないよ」
恭一は、確信を持った表情で高鍋を見据えた。
「つまり、ここは諜報機関の日本支局ってわけさ」
笑っていた高鍋の顔がみるみる無表情になった。それは、まるで能面のように。
「よほど死にたいらしいな…」
だが、恭一は相変わらず笑みを浮かべている。
「アンタにオレを殺せんよ」
「データはあるんだ。おまえの役目は終わった」
「誰がその中にすべてが有ると言った?」
「……?」
高鍋が驚きの表情をみせる。恭一はコメカミ辺りを指差し、
「アンタが欲しいデータはここに入ってるよ」
「なんだと!?」
「アンタが欲しいのは唯ひとつ。純国産戦闘機〈心神〉の設計データだ」
恭一は口の端を上げてニヤリと笑った。
「…なんの話だ?それは」
「とぼけるなよ。アメリカのF22A、ステルス戦闘機を上回る第6世代の戦闘機の設計データだよ」
恭一の説明に、高鍋はもはや騙すのを止めた。内ポケットから1枚のカードを取り出しテーブルに置いた。
星条旗と鷲をデザインしたマークに5ケタのナンバー。それ以外は名前も写真も入っていない。
まさしくCIAメンバーが持つカードだった。
「何故、分かったんだ?」
「今の日米同盟を考えれば当然だろう」
「それは見解の相違というモノだよ」
「イヤ、違わないな。アメリカの第7艦隊の動きを考えた時、奴らは台湾海峡は死守するが、日本が北に襲われても手助けもしないだろうよ」
恭一の持論に、高鍋は苛立ち始めていた。
「オレはデータの話をしているんだ!民族間にある国益の相違を議論して意味があるのか!」
「そう焦るな、高鍋。夜は長いんだ…アンタは場違いと言ってるが、話は繋がるんだろ?
3年前、日本は次期戦闘機にF22A、100基導入を閣議決定させた。1基220億、専用整備工場の設置費も含め、10年間で5兆5000億を計上した。
ところが、アメリカは機密漏洩の問題から今でも売るのを渋っている。それ以前も、F15、16を導入する際、そのキモであるエンジンとミサイル誘導装置を同様の理由から除外した。
台湾や韓国には認めておいて、同盟国である日本からの導入要請を蹴ったんだ」
恭一は深く息を吐いて言葉を続けた。
「アメリカが考えたように、日本政府もアメリカには落胆してるんだ。そして、極秘裡にアメリカに頼らない兵器開発を試みたんだ。
それは90年代初頭に〈Fs‐X〉として日の目をみてから、一旦は消え去ったかに見えたが実際は、防衛省支援により播磨重工で開発は続いていた。アンタはそれを知った」
高鍋は軽く頷いた。
「確かに驚いた。ステルス能力やエンジン性能、ブレイン・インターフェース・コクピット、セルフコントロール・スーツなど、我々が次世代と考えていた技術を、すでに日本が完成させていると聞いた時は信憑性を疑った」
「しかも1基あたりのコストはF22Aの半分。こんなモノ作られちゃアメリカの軍需産業はガタガタだな…」
「そうだ。世界最大の武器輸出国であるアメリカは、日本の兵器レベルに驚異を持った。
しかし、今から新型機開発となると10年の歳月と1,000億ドルの費用が掛かる。そんな事、納税者が納得するわけがない。だから、我々は設計データを盗もうとしたんだ」
恭一の読みに、高鍋はわざとらしく拍手を打った。