Stealth Last-12
翌日、夜。
石垣島から戻った恭一は、高鍋の待つオフィスビルを訪れていた。
「ご苦労だったな」
中に入り、応接室に通された恭一。ソファに腰掛け、持参したバッグから外付けのハードディスクを何台もテーブルに並べた。
それをしげしげと見つめる高鍋。
「これで全部か?」
「ああ、データ全部だ」
「派手にやったみたいだな…」
高鍋は、その日の夕刊を恭一の前に置いた。そこには、播磨重工ビル爆破が1面を飾っていた。
「奴らのバックアップ機能が災いしたんだ」
恭一は悪びれることも無く肩をすくめる。
「奴らは普通の民間企業と同じようにデータのバックアップを考えた。
すなわち、地震でビルが倒壊した場合に備えて極秘データを地震の無い地域に蓄積し、万が一の場合には本社や防衛省研究所にデータを送るシステムを組んだ。
奴らは石垣島にあるデータ保管所にデータを送っていた。あそこは地震が無いからな…」
「なるほど、それで人為的に地震を?」
恭一は軽く頷く。
「あのビルは免震構造で、躯体をバネで支えていた。だから、そこを破壊すれば震度5以上の“人為的地震”は起こせる。
後はバックアップされたデータ送信をインターセプトすれば良かったのさ」
まるで人ごとのように語る恭一に、高鍋は感心しながらも畏怖を感じた。
「ところで…」
今度は恭一が高鍋に訊いた。
「アンタは破格の報酬を掛けて、何を得ようとしてるんだ?」
「クライアントの事情は問わないのがルールじゃないのか?」
「アンタが単なる産業スパイの親玉ならな…」
「なんだと…」
高鍋の顔がみるみる険しくなった。恭一は冷笑を浮かべている。
「アンタが、諜報機関の関係者となれば話は別って事さ」
一瞬の静寂が部屋を包んだ。その緊迫感を、高鍋の高笑いが消し去った。
「ハハハッ!おまえ、スパイ映画の見すぎだせ!」
笑い声が響く中、恭一は語りだす。