Stealth Last-10
…10秒……20秒…
何も起こらず時間が過ぎていく。
「やっぱりイタズラか」
そう思った瞬間、辺りが閃光に包まれ、白煙の柱が高く上がり、凄まじい轟音が響き渡る。
「…あ…あわわ…」
警備員の身体は大きく震えていた。
「…は…ああ…いかん」
警備員は辛うじて働いた頭で、警備室に備えてある、操作盤の“退避アラーム”のボタンを押した。
突然の爆発音と、夜中にビル内に響くサイレンに社員達は、パニック状態に陥りながらも外に逃げ仰せた。
「こ、こっちに逃げて下さい!」
それは最初のショックから立ち直った警備員が、社員達をビルから100メートルほど裏手に誘導している最中に起こった。
再び轟音が鳴った。今度は地響きをともなって。
あまりの出来事に、社員達は腰が抜けたようにその場にしゃがみ込み、誰もが恐怖に顔を引きつらせる。地響きは短い間隔で数回にわたった。
やがて地響きは止んだ。もうもうと立ち昇る土煙はビルを覆いつくていた。
「…あ…あれは…」
彼らは目撃した。
わずかな街灯に映し出されたビルの姿を。そのカタチに先ほどまでの頑強なイメージは無く、大きく傾いていた。
1時間後、石垣島。
恭一は、ホテルから黒い海を眺めていた。
さる航空会社資本のホテル。バルコニーから見えるライトアップされた庭は陳腐だが、潮騒の音と風は妙に心地よかった。
テーブルに置かれたロイヤルサルートのボトルは、すでに半分になっている。
恭一は遠く離れたこの地で、ひとり祝杯を挙げていた。30分前、オペレーション完了の連絡を受けた時から。
(…ここまでは順調だ…)
恭一は、グラスのスコッチを一気に傾け、深く息を吐いた。
「後は…」
海を見つめる目は輝きを増していた。
「何だ…こりゃあ…」
現場に到着した佐倉は我が目を疑った。先日、訪れた播磨重工ビルが崩れて傾いているのだ。
その周りでは何台もの救急車が停まり、体調不良を訴える人々を次々と運び、何処から湧いたのか深夜にもかかわらず、野次馬が集まっていた。