G[M]-4
二
帰り際、オヤジ狩りにあってる人がいた。助けようにも助けられず、その少年らしき集団はそのまま財布の中の金を丸ごと引き出した。
『返してくれー!!それは俺の全財産なんだ!!家内が唯一くれた小遣いなんだよ!!!』
『知るか、オマエの経済状況なんか!』
ドッと笑いが起きた。海斗はそれを見ていて段々と腹が立っているのに自分自身気付いてはいなかった。
『大体これで全財産とかキモ過ぎじゃね!?ヤバいだろ、これで何するっつぅんだよ!!』
そう言って少年はその男につばを吐き捨て、立ち去ろうとした。そのとき、自分でも何が起こったか訳が分からなかった。気付いたときには目の前に顔を腫らして倒れている少年が一人いた。
『誰だよこいつ……、おい!秀幸が動かねぇ!!のびてんぞ!!!』
その他の連中はその倒れている秀幸という少年を抱きかかえ、そのまま逃げるように去っていった。
『大丈夫ですか。』
オヤジ狩りにあったおじさんに、海斗は手を差し伸べる。しかし、何故かその人はそれを拒み、そのまま逃げるように走り去った。
何故だろう、と考えているとすぐに答えは見えた。
後ろに振り返ったとたんに図体のでかい男が構えており、気付いたときには逆にぼこぼこにされてしまった。
『俺の弟に手ぇ出しやがって。』
その後はすぐに去っていったが、そいつのパンチは強力なものだった。骨が折れたんではないか、と疑うほどだ。
『ったく、今日は最悪の日だな。』
ぼそりと呟いた海斗はゆっくりと立ち上がり、足の汚れを手で払った。顔を優しく触ってみる。幸い、骨は折れていないようだった。
しかし、痛いのには変わりないのであまり喋ったりなどはできない状況だった。
『今日はどこ行くー?』
『そうだなー、カラオケ!』
『いいね!いこいこ!!』
ギャルにチャラ男。二人でカラオケか……。もう何年も行ってないな。そのとき、ふと恵子の顔が頭をよぎる。
一年前に別れたっきり一度もあってはいない。今頃どうしているのだろう。
はっと我に返り、何を考えてるんだと自分に動揺した。ひょっとして未だに未練があるのだろうか。だとしたら、そろそろ他の女でも作らないな。
そんな事を思いながらコンビニへ入る。ビールを二本とつまみを三袋。そのままレジへ行き、ついでに栄養剤も買っといた。
『どうしたんですか、そんなに顔腫らして。』
『何、心配してくれてんの?』
『んな分けないじゃないですか。ちょっと気になっただけですよ。』
この子はここのレジの店員で、ちょくちょく来るので仲良くなってしまった。
この子は俺のことが好きなんだろうか。何か自意識過剰な所があるが、この子だったら付き合えるし、恵子を忘れられるきっかけにもなる。一か八か、誘ってみよう。
『今度の日曜日にさ、どっか行かない?』
彼女はとても驚いた様子だった。年も近いし、意識してないはずはないので、ひょっとしたらいけるかもしれない。
『ごめん。』
早い。もうちょっとためてくれても良かった。
『私、彼氏いるから。』
やっぱしいたのか。
『あなたと仲良くするのはよせって言われてたんだけど、あの人は私のことを恋愛対象にはおいてないから大丈夫だよって言ったの。』
しかも、恋愛対象には置いてなかったと。
『でも、あなたがそう言う考えだったなら、私、バイト止めなくちゃ。』
まじすか。一瞬で展開早すぎだろ。もうちょっとためろや。
『聞いてる?』
『はゃ?』
とっさだったので変な声がでてしまった。
『もういいよ、これ持ってさっさと帰って。』
袋を突きつけられ、後ずさりするように店を出た。このとき時計には10:22と点滅していた。