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あなたを知りたくて
【学園物 恋愛小説】

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あなたを知りたくて-1

本のページを捲るかすかな音と貸し出しや返却のために交わされる控えめな声音が図書室の空間を占めていた。

カウンターの内側で美月は借りた本に目を落としつつ、いつもながらの静けさに欠伸を噛み殺し口元に手を当てた。

本好きだからと引き受けた委員だが、学校の図書室なんて盛況な訳がない。

片手で数えられる程にしか利用者はおらず、この後訪れる人もいなさそうだ。

美月は一つ大きく伸びをして膝に置いていた本にしおりを挟み閉じた。

もう1人の当番である後輩に少し席を外す事を伝えて静かに図書室を出た。

「うーーん」

両手を上に思いきり伸ばしてもう一度伸びをする。


あっ!机の中にもう一冊本を入れっぱなしだったんだ。


特に急いで取りに行く必要もなかったけれど、体をほぐしがてら取りに行ってみようと教室に向かって歩きだした。



ん?

かすかにコーヒーの香りがする。

ふと鼻を掠めた香りに美月はある部屋の前で立ち止まった。

『理科準備室』

美月はそっと把手に手をかけてスライドさせてみた。

細く開いた隙間から強く香るコーヒーの匂い。

誰か先生がコーヒー飲んでんのかな?

好奇心で更にドアをもう少しスライドさせて覗いてみる。

谷川せんせ?

授業中にかけている黒縁の眼鏡はその顔になく、ペンを持った手で頬杖をついて資料らしき物に目を落としている。

少し身を乗り出した美月は、ふいに顔を上げた谷川ともろに目が合ってしまった。

やばっ!

慌ててドアを閉めようとしたが、それよりも早く谷川が声をかける。

「瀬尾?」

呼び止められて逃げるタイミングを失ってしまった美月は仕方なく準備室の入り口に立った。

覗いていた後ろめたさから口を開く事が出来ない。

谷川はそんな美月を気にする様子もなく気軽に声をかけた。

「そんなとこに立ってないで入れよ」

どうせ見つかったんだから今更逃げても意味ないか。

そう思った美月は後ろ手でドアを閉め谷川の近くまで歩み寄った。


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