あなたを知りたくて-2
「何か用だったか?」
机の上の資料をかき集めながら美月に訊く。
「えっ?あー…コーヒーの香りがしたから…」
「それで覗いたのか?」
からかうような調子に美月はムッとしたが口をつぐんだ。
「コーヒー飲んでいくか?インスタントだけどな」
谷川は未使用のカップを取り出し湯を注いで、立っている美月に適当に座るよう促した。
湯気の立つカップを前に口をつけず見つめる美月に谷川は首を傾げた。
「飲まないのか?」
「…砂糖…ある?」
ブラックを飲む習慣のない美月はそのままでは飲めない。
谷川はガラス瓶を美月に手渡した。
「これ砂糖?かわいー…」
瓶の中には色とりどりの小さなキューブが詰まっていて美月は瓶を回しながら見ている。
「入れるのもったいないな」
この部屋に入ってから美月は初めて笑顔を浮かべた。
「そんな事言ってるといつまでも飲めないぞ」
「うん…」
美月は1つキューブを取り出すとカップに沈めた。
カップを両手で持ち、谷川を見つめる。
「何だ?」
谷川が視線に気付いた。
「眼鏡しない方がよくない?」
眼鏡のない谷川は意外な程端正な顔立ちをしていて美月は思わず見惚れてしまった。
谷川は傍らに置いていた眼鏡を取り上げ少し振る。
「俺が眼鏡外したらみんな黒板見ないだろ」
冗談を言ってるような口振りだが、谷川の言う事には説得力があった。
「すごい自信だね」
カップに目を落としコーヒーを口に含む。
「俺はまだクビになりたくないんでね」
「だからダサいだて眼鏡で顔を隠してるんだ」
「どうしてだて眼鏡だって思うんだ?ホントに目が悪いかもしれないだろ?」
含み笑いの谷川の手から眼鏡を奪うと美月はかけた。
「だってさっき眼鏡かけてなかったのに覗いてたのが私ってわかったじゃない」
眼鏡を必要としない美月の視界は眼鏡によって歪む事はなかった。
「瀬尾は鋭いな」
「別に。単純な事でしょ?」
「出来れば眼鏡の事はみんなには内緒にしといてほしいんだけどな」
美月から眼鏡を取り返し、手の中で弄ぶ。