光の風 〈回想篇〉中編-7
「残留思念を読む、そういった力を持つ人なら知っているわ。」
暗く重い空気に一筋の光が指す。マチェリラの透き通るような落ち着いた声は、希望の光のように思えた。
「マチェリラ?」
思わず彼女の名前を呼んだのは貴未だった。
「もう、逃げたくない。私達も前面に出て戦わなければいけないのよ。いつまでも過去にこだわり続けるのはイヤ。」
さっきまで震え、貴未に支えられていた彼女は自分の力で前を向いていた。そんな彼女の様子をただ周りは見ていた。
「でもマチェリラ、そんな人どこに?」
貴未の問いに答える代わりにマチェリラは微笑んだ。
「カルサトルナス、その為には貴未の力が必要なの。誰かを捜しに行く前にいいかしら?」
「貴未の力?」
マチェリラは頷く。
「地球へ行くわ。」
誰もが息を飲んだ。またその世界。カルサも千羅も瑛琳も考えたことは一緒だった。
「また地球。結界士も日向もカリオの入り口もそこだった。」
「皇子、あそこには一体何があるのでしょう?」
千羅が瑛琳に続く。カルサは目で応え言葉にはしなかった。
「カルサ。」
貴未が彼の名を呼ぶ。それは先を促す合図でもあった。カルサは全員の様子を目で伺う。
「オレ達がどう動くべきかが分かった。でも、それにはまだ情報が足りない。」
カルサの言葉に全員が頷く。少し間を取った後に顔を上げ、カルサは迷いのない声で言葉を続けた。
「貴未、マチェリラと地球へ行ってくれ。」
「分かった。」
「マチェリラ、その人物を連れてきてくれ。頼む。」
「ええ、必ず。」
カルサの言葉に二人は応える。次に視線を送ったのは瑛琳だった。
「瑛琳、ここの警護を頼む。」
「はい。」
それはナルの事を意味していた。瑛琳は返事をした後、ナルに視線を送った。当たり前に彼女は身動き一つしていない。
「千羅はオレの傍にいてくれ。もしもの時は…頼む。」
カルサの言葉が濁る。何を意味しているのか察した千羅は大きく頷いた。そして答える。
「はい、分かりました。」
カルサは頷く。
次の目的に向かって道が見えてきた。誰の目にも力が宿り、思いは一つになっている。