光の風 〈回想篇〉中編-5
「陛下!!危ない!」
気付いた兵士がカルサを守ろうと一歩踏み出した瞬間。
カルサが止めるように手を出した。それと同時に一人の青年が前に出て、魔物を切り裂いた。
「カルサ、怪我は!?」
決して振り返らずに、目の端でカルサを確認した。あまりに一瞬の出来事に、その場にいた兵士は口が開いたままになっている。
「ない。千羅、オレは中にいく。」
カルサは千羅の声に素早く反応し答えた。千羅は向かってくる敵を倒しながら背中でカルサと会話をした。
「分かった!ここは任せろ!」
兵士の手前、千羅が言葉遣いを変えていることにカルサは気付いていた。求めていた答えが返ってきたことに自然と笑みがこぼれる。
「頼む。」
「おうよ!」
千羅の声を背中に受けて、カルサは部屋へと繋がる扉を開けて中に入っていった。話の速さについていけず兵士は手持ち無沙汰になってしまった事に千羅は気付く。
「おい、暇なら戦え!死ぬか戦うかしかねぇぞ!!」
千羅の言葉に開きっぱなしだった口を閉じ、気を引き締めた。腰周りに付けていた剣を鞘から抜き、構えながら千羅の横にいく。
「陛下のお知り合いだとは思いますが、貴方は何者ですか?」
魔物を切り裂き、倒した後で千羅はそれに答えた。
「友達みたいなもんだよ。」
「私は貴方を知っています。前の襲撃も貴方は陛下を守るように戦っていました。」
兵士の目は真剣だった。思わず千羅の動きが止まってしまう。
「余計な事は聞きません。貴方は陛下の味方ですよね?」
一介の兵士とは思えない鋭い眼差し。千羅は軽々しく対応するのをやめた。
「ああ。仲間だ。」
嘘を言わない真剣な眼差し。本心で応えてくれた事に気付いた兵士は微笑んだ。千羅もそれに応える。
「私達に力を貸してください。ここは絶対に守らなければいけません。」
「手伝うよ。やれるとこまで、な。」
外で千羅達が交戦している中、カルサは民の部屋の中に入り混乱を目の当たりにした。またいつかの時のように民は震え不安に押しつぶされそうになっていた。
ただあの時と違うのは、誰も兵士を責めたりしていないという事だった。
「国王陛下!」
女官の一人が声をあげる。カルサは頷き部屋の中心に歩いていった。まだまだ騒めきはあるものの、少しずつ民の意識がカルサに集中していく。
カルサは近くの女官に現状を聞き、把握した上で遠くの兵士達に各扉の前につくように指示をした。
そして結界を張り、カルサは部屋を後にした。