光の風 〈回想篇〉中編-3
「陛下!」
カルサを見付けた兵士が駆け寄ってきた。カルサは一度足を止め兵士の言葉を待つ。
「どうした?」
「大変です、民の部屋に魔物が集中し始めました!」
部屋には結界が張っており、外で兵士が交戦していると続ける。どうしても人数が間に合わず、応援を呼ぶために自分が派遣されたと兵士は言った。
「兵士の状態は?」
厳しい表情でカルサは問う。兵士は苦々しく口を開いた。
「死傷者は、増えるばかりです。」
カルサの目が大きく開く。目を強くつむり、ゆっくりと開いた。
「戻るぞ。加勢はオレ一人でいい。」
カルサは民の部屋に向かって走りだした。早く、早く、強い気持ちが体を前へと押しやってくれるような気がする。
「陛下、私たちの力が至らずに…申し訳ありません!」
後ろについてくる兵士が涙声でカルサに詫びを入れた。その言葉、思いに堪え切れず声が大きくなる。
「違う!」
カルサが叫ぶ。感情の高ぶりから出た言葉に続くものが出てこない。
「違う、そうじゃない。」
カルサは足を止めて振り返った。兵士と目を合わせ、もう一度言葉にする。
「お前達には何の否もない。全てはオレに責任がある。」
カルサは左手で強く兵士の肩を掴んだ。強い眼差しはどこまでも自分を責め続けている。
「精一杯力を尽くし戦ってくれ。民を守り、自分の命も守ってほしい。頼む。」
掴まれた肩が痛い、それ以上に切実なカルサの思いを感じた心が痛かった。
「はい。」
兵士が答えるとカルサは一瞬微笑み、再び民の部屋へと向かって走りだした。振り返るその時に兵士には見えてしまったものがある。まるで何かを隠すように纏っていたマントの下、カルサの体を引き裂きそうなほどの大きな傷跡があった事を。
兵士の表情が次第に引き締まっていった。前を走るカルサを追いかけるように走りだす。その足には今までに無い程の力強さがあった。
徐々に交戦の賑わいが聞こえてきた。苦痛の叫びや、闘気に満ちた叫びが入り交じっている。そこへ走りながらカルサは右手に剣を召喚し、さらに勢いをまして走りながら切り込んでいく。
「陛下!」
民の部屋を守る兵士の一人が向かって来るカルサに気付き叫んだ。
「どけ!!」
カルサの叫びに瞬時に反応し兵士は一歩体を外にずらす。その瞬間、カルサは後ろから魔物を真っ二つになるように切り裂き、魔物の断末魔は辺りを騒然とさせるほど響き渡った。
二つに裂かれた体が大きな音をたてて地面に崩れ落ちる。人も魔物も、誰もがカルサに集中していた。