光の風 〈回想篇〉中編-14
「この部屋には結界が張ってある。気にせず話してくれ。」
カルサの言葉にさらに頭を下げる。
「私は風の神官である環明様の側近、アバサの孫・リュナと申します。」
「アバサ?環明にそんな側近がいたとは知らなかったな。」
「内々でほとんど外には出ておりませんので、ご存じなくても無理はありません。」
レプリカは頭を下げたままカルサの問いに答えた。
「しかし、これならどうでしょう。」
レプリカはゆっくりと顔を上げ、再びカルサと向き合った。
「アバサは別名・風蝶の婆。私とセリナ様をあの国で育ててくれた者でございます。」
また、カルサの頭の中でピースが1つはめられた。微妙に浮かび上がってくる絵、1つの存在は明らかになりつつあった。
「私とアバサは、二人で全てからセリナ様を守ろうとしました。それ故セリナ様には何も知らせてはおりません。」
環明とリュナの関係が明らかになっていく。カルサの手には確実に糸が握られていた。
「リュナのあの力は?」
「環明様から直々に受け継いだものです。」
手繰り寄せる、ピースが埋まっていく。欲しい情報がすぐ目の前から下りてくる。カルサは嬉しいよりも、衝撃よりも、焦りよりも本能で求めていった。
先の見えない糸をただ夢中で手繰り寄せていく。
「リュナは誰の子だ?」
真に迫る事にためらいはない。これ以上何がどうあっても、己の信念を突き通す。それを決めていた。
決して上からではない。ただ教えてほしいという願いが、彼を前傾姿勢にさせる。
レプリカは目線を外す程度に頭を下げた。
「あの方は、環明様のお子でございます。」
反射的にカルサは椅子から立ち上がった。
「父親は?」
レプリカは首を横に振った。カルサの声がかすかに震えている。
脱力しきった体はゆっくりと椅子に向かって下りていった。
「ウレイか。」
呟いたのは自分だった。なのに自分の発した言葉に衝撃を受け、強く鼓動が体中に響く。まるで自分の中に誰かがいるようにも感じた。
強い鼓動は痛みさえ覚えるほどのもの。なだめるように、痛みを和らげるように胸に手を当てた。
もし、本当にリュナが環明の娘だったのなら。しかし事実なのだろう。
信じがたい真実はカルサの胸に深く突き刺さる。受け入れようと目を閉じ、静かに深呼吸をした。