電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―文化祭編―-14
仲町先輩とアキには時間が止まった時の場所である体育館に行ってもらい、倉本先輩を〔増幅器〕のある場所に連れて行った。
「ワタシはこーこーにいるーよー♪」
「見りゃ分かる」
妙に音を外して馬鹿でかい声で歌いながら飛び跳ねていたので、美由貴を見つけるのは簡単だった。
「にしても、ここかぁ」
美由貴がいたのはなんと映写室の前だった。〔増幅器〕は触れてみないと見かけでは分からないとはいえ、こんな近くにあって気付けなかったのは、ちょっとお間抜けが過ぎる。
扉を開け中に入ると真琴が起きた時同様に暗かった。扉は音も立てずに時間が止まった瞬間の位置に戻る。美由貴が光の〔現象〕を起こし、ようやく室内を見渡せるほどの明るさになった。
「あのね聞いてー! あのね、カメラなんだけどね」
「いや映写機でしょこれ?」
比較的新しい校舎にある映写室には不釣り合いな、古めかしい映写機がある。触れると、確かに〔増幅器〕の能力と宿る〔意志〕を感じた。それにしても。
「……ヤな感じ。これどこで?」
「知り合いの……アレ? 誰だっけ……?」
倉本先輩は混乱しているのか、記憶がまとまらない。〔意志〕ある〔増幅器〕に触れるとよくあることらしいが、とりあえず今はどうでもいい。
「じゃあ先輩……行きますよ」
ペンジュラムを揺らし、精神統一。〔意志〕の流れを定め――
―――――…………。
「綿飴食べよー! 美由貴綿飴好きー死ぬほど好きー☆」
「勝手に死んで……」
文化祭はまだ始まったばかりだというのに、早くも真琴は疲れ切っていた。
「シュッシュ! シュッシュ! まことぉ! そんなことじゃチャンピオン狙えないぜ! それ、振り子の原理で首を狙え!!」
「ちょ、やめ、首折れるでしょうがこのバカ!!」
疲れ切っていた理由に関しては、最早見たくもない。
映写機の形をした〔増幅器〕は、〔意志〕を失いただの〔増幅器〕に戻った。〔増幅器〕はただの道具に過ぎず、悪意ある〔意志〕がなければ使い方を知らない人間が触っても何の意味もない。
しかし時を止める〔増幅器〕とは、すごいものが出てきた。もう無害とはいえ、文化祭が終わったら回収しに行かないと。
――そういえば。思い出した。
「あのさ、美由貴」
「シュッシュ!…あれ、なーにー?」
「……ま、いいや」
美由貴はあの後、記憶を消す〔現象〕を仲町先輩とアキに起こした。しかし、倉本先輩には何もしなかった。
何故か、と訊いたって、美由貴はいつものように支離滅裂な返答をするだけだろうから、自分でその意味を考えることにした。
例えば、去年の何を倉本先輩は気にしていたのかとか。
そもそも、何故仲町先輩とアキには〔現象〕が起きなかったのだろうとか。
移動させられたら、止まった瞬間に戻るのがあの〔現象〕の法則なら、何故、“あの消火器だけ当たり前のように動かせたのか”とか。
意味はあるのかもしれない。でも、真琴はそこまで好事家じゃないから、確かめようとは思わない。特に天使のすることの意味を考えることは意味のない行為だ。
知らなくていいことは、知らなくていい。
「あー交代の時間だ。アタシ行ってくるわ」
「ブッブー!! ダメー☆ 美由貴も行くー♪」
「……好きにしてよもう」
真琴は自分の教室に向かった。文化祭を見る側から、参加する側になるために。