電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―文化祭編―-12
時間が止まったのは、まだ十時前だった。
だからまだ外部からの来校者は少ないけれど、生徒はみんな楽しそうに、模擬店を覗いたり逆に喫茶店のウェイトレス姿で頑張っていたりしている。
――それがみんな、止まっていた。
楽しそうに、止まっていた。
「なんか、変な感じ……」
ポツリとアキが呟く。その呟きは、四人全員に共通していただろうと思う。
「…………」
先頭に倉本先輩。倉本先輩は、まるで自分のしたことを焼き付けるかのように、じっくりしっかり、つぶさに見ている。
その後ろ姿を仲町先輩が眺め、さらにその後ろから真琴とアキが並んで付いてくる。
スーパーボール掬いがあった。試しに触ってみるが、干渉を拒否され、スーパーボールは真琴の手から離れて元の場所に戻る。
「アキ」
「ん?」
「どんな人? 倉本先輩って」
時が止まった文化祭は、まるで砂漠のように静まりかえっていて、楽しい瞬間に時は止まった筈なのに……拒絶されているような、そんな気がする。
「……真面目だと思う。でも真面目すぎて、思いつめて……自分を責めちゃう。全部自分が悪いって」
想像してみる。自分で全て背負う姿。
「先輩、ダメ出しの時とかキツい言い方するけど、後からゴメンねって言ってくれる、……そんな人かな。でも、クラスには……馴染めてないみたい。ああいう言い方するから」
そういう部分は、真琴にも少なからずあった。
だから考える。何もかもを背負いこむ人が、クラスに溶け込んでいない人が、文化祭の時を止めたいと思うのは?
――倉本先輩は真剣に、一つ一つのクラスを覗いていく。
何か、思い入れがあるんじゃないだろうか。いや、きっとある。じゃないと、あんなに丁寧に一つ一つ覗いたりは、しない。
……クラスに溶け込めていない。それは先輩には悪いが、容易に想像出来る。
でも本当は。一緒に、文化祭を盛り上げたかったんじゃないだろうか。
だけど、全部を背負いこんでしまう先輩は、だからこそ、背負いこむのが怖かったのかもしれない。失敗したらどうしよう。そんな感じ。
斜に構えてキツい言い方でクールに見えるから、クラスメイトはきっと放っといた。興味がないのだろうと決めつけて。
自分からは怖くて行けない。周りから声をかけてもらえない。
――輪に入りたくても入れない人間は、どうすればいい?
「………!!」
自分の頭に浮かんだ言葉に、胸が締めつけられた。
「大丈夫?……顔色、悪いけど」
「――全然大丈夫。ほら、もう少し見よ?」
四人は時の止まった文化祭を練り歩く。
それはまるで、懺悔の行進にも見える。