電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―文化祭編―-10
「演劇部の部長をしています、高等部三年の仲町彩花〈なかまちあやか〉です。気絶したのは高等部二年の倉本佳奈〈くらもとかな〉、高等部一年の佐伯明未〈さえきあけみ〉です」
倉本先輩はかなり端折った紹介だったが、仲町先輩は性格からか丁寧に説明していく。
「あと三十分で本番だったんですが、倉本さんが出たくないって言い出して……」
チラッと倉本先輩の方を見てみる。そんな風に土壇場で降りるような人間には見えないが、逆に言えば言い出したら聞かなさそうだ。
「勿論そんなの許せるわけがないし、代役だっていない。元々の人数が足りなくて、ホンを書き直したぐらいなんです」
仲町先輩は苛立ちと、この状況への混乱を声に乗せていく。
「そしたら、『鬱陶しい』って。その一言でした、それがキッカケでした」
「えっと、すみません。キッカケは、言葉? 何か動作をしたり、もっと直接だと怪しい道具使ったりは?」
「……してないです。少なくとも私はわかりませんでした。ねぇアキちゃんは?」
「えっ……すいません、わかんないです。私、先輩たちが言い合ってるのを見たわけじゃないし……」
「そっか……」
なんだか曖昧な話だった。正直、倉本先輩があっさり自白したことも、どことなくおかしい。
一人でこれだけの〔現象〕を起こすには、〔意志〕もそうだが〔増幅器〕もかなりの力を持っていないととても起こせない。
しかし倉本先輩には今のところ、〔増幅器〕もなければ儀式や人数もない。無論、事前準備や遠隔起動など、考えられることはまだまだあるが、どれも断定する材料に足りない。
(ちょっと、美由貴)
〔幻影水晶〕を使い普通だと見えない幻影を使って、不本意ながら美由貴がどう考えてるか聞くことにした。
さすがにふざけていい雰囲気ではないと分かったらしく、美由貴も直接心に話しかけてきた。真琴は密かに〔電波交信〕と呼んでる。人間でも増幅器なしに使える、比較的簡単に起こせる〔現象〕だが、おそらく美由貴ならこの文化祭を襲っている時間が止まる〔現象〕も、〔増幅器〕なしに楽に起こせるだろう。
逆に言えば、面倒な手順なしに美由貴ならこの〔現象〕をなかったことに出来るかもしれない。
(真琴さぁん、さすがにそれはムリっすよ〜)
ヘラヘラと酔っ払ったような返事がきたが、美由貴は哀しそうだった。
(分かってる、ってかアタシの考えてること読むな。美由貴が考えてること教えてくれればいいから)
(…………)
美由貴は真琴の力になれないことを一番哀しむ、らしい。美由貴は人類より上の、『天使』。だからこそ、必要以上に助けられないらしい。詳しくは教えてはくれない。
でも、真琴はそれでいい。そもそも〔現象〕そのものが嫌いなのだ。その〔現象〕をいとも簡単に起こす美由貴は――正直、怖い時もある。
だから今は、天使としてじゃなく、あくまで美由貴としての意見を聞きたいだけだ。
(……この〔現象〕は、ちょこちょこ厄介だな〜。あのねあのね、これ、〔増幅器〕が厄介で、私は貝になりたいな〜)
(〔増幅器〕が厄介…?)
(〔増幅器〕自体に〔意志〕が宿ってるんだな、つまりぃ美由貴の大好きな呪いのアイテムだふっふー◎)
(げ、それってつまり)
(〔お祓い〕がいるってこと! あのねあのね、佳奈ちゃんの〔意志〕と〔増幅器〕の〔意志〕は同時に殺さないとダメから、ダブルでたいへんだぁ◎)
〔意志〕を殺す。物騒な言葉だが、要は諦めさせたらそれでいい。人間相手なら〔現象〕はそれで離散する。
けど〔増幅器〕に〔意志〕がある場合は、〔意志〕が使った人間に逆流する。つまりこの場合は、倉本先輩が酷いことになる。
完全に話が変わってきた。〔増幅器〕を見つけつつ、倉本先輩を説得しなければならない。
美由貴に天使としての頼み事は嫌だった。しかし、今は真琴一人では無理なのだ。
(……役割分担するしかないか。アタシなしでもちゃんとやってよ?)
(ふっふー♪ ダイジョーブ心配しなさんなってぇ!!)
……とても心配だが、ここは、美由貴を信じるしかないようだ。
「じゃあ美由貴、GO!」
「イエッサー!!」
ピョンピョンと、何故かウサギ跳びで体育館から美由貴は出て行った。
「……あの」
(あ)
しまった。話を知らないアキと仲町先輩は、美由貴のいきなりの奇行にちょっと怯えていた。
「お姉さん……大丈夫?」
「…アハハハ…」
……色んな意味で答えられなかった。