冬の観覧車 ◆第三話◆(最終話)◆-1
一週間僕らは会わなかった。そして、事件から八日後、僕らは再び遊ぶようになった。
事件については暗黙の了解の下誰一人触れなかった。
隆二があの砂漠の名を口にすることは二度となく、僕はニルヴァーナのネヴァーマインドを海に捨てた。
日々は続き、それでも、僕たちの生活は何一つ変わらなかった。
僕は相変わらずサクラとセックスを続け、学校の屋上で煙草を吸い、廃墟の一階で遊んだ。
そして高校を卒業すると、僕はフリーターになり、隆二はニートになり、サクラは建築会社の事務員になった。
会う回数は目に見えて減ったが、それでも僕らの関係は特には変わらなかった。
セックス、煙草、ロックンロール、おしゃべり。それだけ。
下り坂が続いている。
遠くから、ずっと見えていた観覧車も、すぐ近くにある。
もう辛い上り坂は終わった。
僕は息を一つ吐き、煙草に火をつける。
なんだか楽しい気分になる。
たった一人ぼっちで、楽しい気分になる。
煙草をくわえたまま、足元の雪を固めて、ウサギを作った。
そうしているうちに、僕は思い出す。
飼っていたウサギが死んだのは五歳のときだった。ウサギの名前はルルララといった。
どうして僕の飼っていたウサギが死んでしまったのか、
それは分からないけれど、何の前触れもなく、平凡な日常のその途中で、
唐突に彼女はその生を全うしてしまった。
それが余りにも急で、五歳の僕は上手くその事実を受け入れられなかった。
青野美千代ちゃんの両親も、ひょっとしたらそうだったのかもしれない。
僕はどうしてもルルララに会いたかった。
会って、もう少しだけおしゃべりをしたかった。
ルルララは勿論何も喋らないけれど、それでも。
僕は固めた雪のウサギの前に、くわえていた煙草を、線香に見立てて立ててみる。
そして立ち上がり、まっすぐに伸びる下り坂を下っていく。
あと十分も歩けば、遊園地にたどり着くだろう。
そうしたら、僕は観覧車に乗るつもりだ。そして、遠くを見渡したいから。