その鮮やかさに魅せられて-1
出会いは里見教授研究室だった。
何時もと同じように思いっきりドアを開けたら博士課程2年目の貴方がいた。
お互い思いっきりびっくりしたよね。
アタシってば思いっきり手に持ってた書類を床にぶちまけちゃったんだ。
って、よく考えたらアタシの第一印象めっちゃズッコケキャラじゃん。
なのになんで千歳はその瞬間にアタシ惹かれたんだろうね。
謎だ……。
実に興味深い謎だ。
夫がいる身で年下の学生にはまっているのと同じくらい謎だ。
アタシはハイリスクしかないこの恋なのか愛なのか分からない感情に惑わされ、狂わされ、溺死寸前だ。
千歳はアタシを惑わし、最上級の愛を惜しみなくアタシに与える。
そしてアタシは千歳の愛に溺れ、日に日に狂っていっている。
ねぇ、千歳。
アタシ、壊れていくのが嬉しいの。
千歳に壊されていくのが嬉しいの。
************
そこは暖かい空気と熱気に包まれているが、その暖かいの世界の外を走り回る風は肌を刺す寒さを纏っているのだろう。
瀬戸内 遊佐子(せとうち ゆさこ)は長く緩いウェーブのかかった髪を手櫛で整えながら、感じるはずのない寒さに身を縮めた。
そして、遊佐子は小さな溜め息を一つ吐くと、今夜の学生達に無理矢理誘われたパーティーにいかに自分が不似合いかとその日何度目かの自己嫌悪に陥った。
その上、若い女性大学事務員の楽しそうな声が酷く耳障りが悪くて、遊佐子は軽い眩暈と吐き気がしてきた。
里見研究室の女子学生が遊佐子と一緒にと強くせがむから出ただけの学生主催のパーティー。
よってたかって里見教授秘書の遊佐子を笑いのネタにし、狡猾にお気に入りの男子学生の側をキープする為の駒として扱う若い事務員達の為に必要以上に遊佐子は疲れた。
遊佐子は群れからそっと離れると、一人カウンターに座り、ジーマにレモンを添えたもの注文した。
止まり木に座り、ジーマを一口飲み少し落ち着いた遊佐子は会場を見回した。
女性事務員達は相変わらず男子学生を追いかけ回し、男子学生が巧みに振り回している様子が手に取るように分かり滑稽だ。
引率してやった里見研究室の女子学生達は慣れない雰囲気に呑まれる事なく楽しんでいるようで、彼女達の保護者的な存在で参加した遊佐子はその様子に安堵した。
安堵すれば、紫煙の霞の中で瞬くさまざまな色のライトが眩しく思え、ジーマの刺激が喉に心地よく感じる。
腹の底に響くダンスフロアの重低音のきいた音楽に身を委ね、目の前で繰り広げられる様々な出来事が映画のワンシーンのように遊佐子の目に映り、遊佐子を楽しませた。