その鮮やかさに魅せられて-4
「はいっっ」
嬉しくて弾んだ声になってしまう。
この暗闇の中の沈黙と孤独を壊してくれれば誰でもよかった。
誰でもいいから遊佐子は側にいて欲しかった。
「喜屋武デス。今、瀬戸内サンってどこらヘンにいます?」
千歳の声は果てしなく明るくのんきだった。
千歳の声が明るく平和そのものだったから遊佐子は甘えてしまった。
「・・・・今、よくわかんない・・・・・。すぐ来て」
千歳は会場から嬉々として遊佐子の元にはせ参じ、ひっきりなしにかかる携帯電話の対応を簡単にすませ、遊佐子との深夜のドライブに勤しんでいた。
しかし、遊佐子はいつもの冗談交じりの口説き文句を一切発する事無く千歳が紳士的に振舞う事に少し物足りなく感じた。
横目で盗み見るように千歳を窺うが、何時もの陽気で憎まれ口をたたくだけで普段となんら変わりない千歳がそこにいる。
しいて挙げるなら、対向車のライトが千歳の横顔をりりしく染め上げ、昼間見ることない色気のようなものを纏わせていた。
なぜだろう。
千歳の運転する車に乗るだけでこんなに胸が苦しくなるのは。
何かの拍子で今の遊佐子と千歳の距離よりもずっと近い距離にいた事だって何度もあるのにこれほど胸が苦しくなった事はない。
遊佐子は頬を両手で覆った。
こんなに千歳といて身体が熱く感じたことはないだろう。
遊佐子は酷く戸惑い、千歳に発するべき言葉を必死で探した。
「・・・・ねぇ、なんで口説かないの??」
遊佐子は敢て突き放すように意地悪く千歳に尋ねた。
必死で言葉を探してこの言葉とは情けない。
しかし、たまに現れる口説き言葉ゲームのボールを千歳に投げたくて堪らない遊佐子が今日ばかりは言うことを聞いてくれそうにない。
「こーゆー時に口説かなきゃダメじゃん」
遊佐子は挑発的に千歳を覗き込む。
千歳はポーカーフェイスを崩さない。
窓を薄く開け、煙草を片手で器用に取り出し火を点けた。
そのポーカーフェイスが堪らなく色っぽくい。
遊佐子は乾いた唇を舌で湿らせ、言葉を紡いだ。