その鮮やかさに魅せられて-3
「今日は共同研究しているメーカーとかを回って来たから、車なんデスヨ。つか、台風って、あーた、もうすぐ12月デスヨ」
「だってぇ、酒豪のキャンくんがお酒を飲まないんだよぉ〜〜」
遊佐子は目を細め、笑いながら言う。
今日は大丈夫だ。
お酒を程よく飲んでいるから、シラフの時ほど緊張していない。
千歳のペースに乗せられないうちにこの場を離れればよい。
遊佐子は屈託のない笑顔で千歳と下らないことを言いながら、当たり障りないようにカウンターを離れるチャンスを狙った。
やがて千歳の元に今日のパーティーの主催者の学生が派手な露出度の高い服を着た女子学生を連れて挨拶にやって来た。
これ幸いにと遊佐子はカウンターから離れ、そのまま引率した学生達に挨拶をしパーティー会場を後にしようとした。
引率した女子学生達の情報によれば、今日のパーティーの主催者の学生は有数のボンボン学校を中学からエスカレーターで大学まで持ち上がり、1年遊んで、2浪して家業を次ぐ為にこの大学に入学したらしい。
そこそこの年齢の彼は自分より年下の千歳が研究室の中堅クラスということで非常に気を遣っているようだ。
その様子を女子学生と笑いながら遊佐子は眺め、彼女達に挨拶をしてその場を離れた。
外はパーティー会場の喧騒とは別世界のように静かで、繁華街からも切り離されたようだった。
今にも星が雪として降ってきそうなほどひんやりと寒く、遊佐子の酔いは一瞬で消し飛んでしまった。
遊佐子は靴音を響かせて坂道を下る。
騒がしい夜の繁華街が懐かしくなるほど、パーティーに使ったクラブは辺鄙な場所にあり、タクシーを捕まえるのも苦労する場所だ。
不慣れな場所がより恐怖を大きくし、遊佐子は溜息を吐いた。
こんなことなら、受付でタクシーを呼んでもらえばよかったと後悔をする。
帰りの道程と繁華街までの道程を考えると大差はないが、恐怖心を暗闇が増幅させ遊佐子の足を止めてしまう。
遊佐子は携帯電話をパーティーバッグから取り出したまま、涙を目に浮べたままその場に立ち竦んだ。
もう大人なのに、なぜ自分は冷静な判断が出来ずに泣きそうになっているのだろう。
そんな自分が悔しくて、悲しい。
泣く位なら、少しでも早く歩いて繁華街の喧騒に飛び込むべきではないだろうか。
遊佐子は深呼吸をして、一歩前に踏み出した。
その瞬間、携帯電話が鳴った。
遊佐子は驚いて携帯電話を落としそうになりながら着信表示を見ずに通話ボタンを押した。