未完成恋愛シンドローム - 白昼夢 --4
「今日は体育ないよな?」
「ありません」
オレの腕を軽く動かしながら師匠が聞いてくる。
「もし体育あったら、クラスの奴ら驚くよな。こんなに青あざあったら」
少し困ったような声が背中から聞こえて来る。
「まぁ・・・望んでやってますから」
「まだ強くなりたい?」
「・・はい」
「そっか」
そういいながら、師匠は湿布を貼ったりテーピングを巻いたりしてくれる。
「・・・」
少し、眠くなってきた。
・・・・・・。
踏みつけられた。
悔しさが、恐怖を消し飛ばした。
せっかく母さんが買ってくれた服も、ズボンも、汚れて砂だらけになってしまっている。
手を握り締める。
腹の底から声を出し、起き上がろうとした。
―一瞬、風が吹いた気がした。
踏みつけられた足裏の感触が消えた。
と同時に、視界の端に踏みつけていた奴が飛んでいくのが見えた。
痛む身体を引きずり起こし、壁を使ってどうにか座る。
男の人が、1人いた。
逃げようとしたんだろうか?残り2人の内1人はお腹を抑えてうずくまり、もう1人は胸倉を掴まれ、吊し上げられながら半泣きになっていた。
その男の人は、少し離れた所にいるオレにも感じるくらい怒っていた。
それでも静かに、吊し上げた相手になにか聞いている。
相手はただひたすら謝っている。
どこか滑稽で、笑えた。
―オレは、こんな奴らにやられたんだ。
・・・・・・。
「ほい、終わりっ」
背中を叩かれ、目を醒ます。
「寝てた?」
「・・はい」
というか、まだ眠い。
そしてなんとなくまだ、嫌な感じが、どこかにわだかまっている気がする。
「師匠」
「ん?」
「師匠はどうして、強くなったんですか?」
背中越しに訊いた。
「んー・・」
―間。
「伊吹より、ちょっと不純かも」
「?」
―どういう・・?
「まぁ、またいつか機会があれば話してあげるよ」
立ち上がった気配。
そのままオレも立ち上がる。
「今日の部活は出る?」
「あ、はい」
胴着を脱ぎ、制服に着替えていると聞かれた。
「今日は僕出れへんけど、ちゃんと練習しーや?」
「・・別にサボったりしないですよ」
カイトじゃないんだから。
「じゃな」
「ありがとうございました」
師匠が道場を出ていった。