未完成恋愛シンドローム - 白昼夢 --3
―ダンッ
「ーっ」
一瞬息が出来なくなる。
「次」
「はいっ」
跳ね起きる。
構える。
「ああああっ!!」
気合いの掛け声と共に体勢を低くし、肘を繰り出す。
避けない。
当たったと思った瞬間、師匠の身体が消える。
横。
畳に膝がつきそうなくらい屈んでいる。
顔が横に並ぶ。
腕。
袖を掴まれ、身体が飛ぶ。
―ダンッ
「か・・・っ」
「次」
「はい・・っ!」
・・・・・・。
また投げられた。
「やめる?」
約30分程。いくら息を吸っても吐いても、足らないような気がする。
師匠はまだ、息一つ乱していない。
「まだですっ」
「じゃ、今度は僕から」
師匠の構えが変わる。
それと同時に、道場の空気も変わった気がする。
息をするのも辛いほど、シン・・・と張り詰めた空気。
「はっ」
「ーっ!!!」」
気合いと同時に師匠の拳が飛んでくる。と同時に、ガードの上からでもうずくまる程の衝撃が走る。
「次」
「っ!」
まだ痺れる腕で護りを固める。
「せっ」
「っぐ・・・」
右の上段蹴り。
さっきのオレと全く同じ順番、全く同じ場所になのに、捌ききれない。
そのまま膝を折る。
「やめる?」
同じ質問。
「ーっ、まだっ!」
吼え、もう一度体勢を戻し、ガードを上げる。
師匠が、微笑んだ気がした。
結局20分程、ボコボコにされた。
組み手を終え、向かい合って正座し、高ぶった心を落ち着ける。
「やめ」
師匠の声で瞳を開ける。
「今日はこれまで」
「ありがとうございました」
礼をする。
「膝崩してええよ」
「はい」
正座を解き、胡座に座り直す。
「いやー、強なったなー、伊吹」
そういいながら師匠が笑う。
開いた口から八重歯が見える。
少なくとも見た目だけでは、30にもなってないような笑顔。
心なしか、張り詰めていた空気が柔らかくなった。
「まだまだですよ」
苦笑いを浮かべながら答える。
「中学入ってすぐなんか、5分も保たへんかったやん」
確かに。
「もっと前なんか、受け身取りきれへんかったりしたし」
「う゛」
まぁ・・確かに。
そう考えれば、ちょっとずつでも強くはなってんのかも。
「ほら、胴着脱いで背中向けて」
「あ、はい」
いわれた通りに帯を解き、腕を抜いて胴着を脱ぐ。