熱い幻-1
父ちゃんが交通事故で亡くなって早二年。
僕は、母ちゃんと祖母ちゃんの三人で暮らしている。
信号機すらない田舎町。
だけど、ここには木や草がいっぱいあって、夏になればカブトムシやクワガタムシもたくさん取れるんだ。
小学校も……まだ友達は少ないけど、それなりに楽しい。
「おい、幸太! 五十円持ってきたか!」
「ううん、持ってきてないよ……」
「なして持って来ないんだよ!」
僕よりうんと体の大きい真二くんが、すごい剣幕で胸倉を掴んでくる。
「こらあっ、おめえ何やってんだぁ!」
これまたすごい剣幕で、祖母ちゃんが僕のほうへ駆け寄ってきた。
「なんやっ、また婆ちゃんが来たんかよ? へんっ、明日は絶対に持ってこいよ。持って来なかったらぶっ飛ばすからな!」
真二くんが、僕をおもいっきり突き飛ばして去っていった。
「幸太、大丈夫かい? なんか酷いことされんかったかい?」
祖母ちゃんが急いで僕を抱き起こし、お尻についた泥をパンパンと手で叩きながら心配そうに見つめてくる。
「だ、大丈夫だよ、祖母ちゃん。ちょっと口喧嘩しちゃって……それで、真二くんを怒らせちゃった」
母ちゃんと祖母ちゃんを心配させたくないから、僕は平気で嘘をついた。
「ならいいけどよ……。あっ、母ちゃんな、今日は仕事で帰りが遅くなるってよ。だから、祖母ちゃんと先にご飯食べとこうな」
「うん、わかった」
母ちゃんという言葉を聞いて、僕の胸にふと熱いものが込み上げてきた。
「祖母ちゃん、僕さ、ちょっと川で遊んでくるよ。だから先に帰ってて」
「一人でかえ?」
「うん。川で石投げんの、けっこう楽しいんだよ」
「なら祖母ちゃんも一緒にやろうか?」
「いいよいいよ、祖母ちゃん。いまからご飯作るんでしょ? 先に帰っててよ。僕もすぐに帰るから」
そう言って祖母ちゃんを残し、僕は川までダッシュした。
走りながら、すぐに涙が溢れてきた。
いつも一緒にいるのに、なんだか今すぐ母ちゃんの顔を見たくてしかたがなかった。