熱い幻-5
僕は、帰宅してきた母ちゃんの手を引き、それに祖母ちゃんも呼んで、急ぎ二人を仏壇の前へと連れて行った。
母ちゃんと祖母ちゃんが、揃って不思議そうな顔で遺影を見つめている。
そんな二人の前で、僕は、これまでついてきた嘘をすべて口にした。
この二年間、ずっとクラスの中で仲間はずれにされていたこと。
友達の家に行くと言って、実はいつも一人で遊んでいたこと。
母ちゃんにもらったお小遣いを、これまでに何度か取られてしまったこと。
そして、今もお金をせびられていること。
僕は、男の子として情けない思いを沢山してきた。
母ちゃんと祖母ちゃんに心配かけるのが嫌だったから嘘をついたんだ。
でも今日からは違う。
僕は男になるんだから。
大人になっていくんだから。
僕が勇気を出して胸のうちを告白していくと、母ちゃんが声を押し殺しながら激しく泣きはじめた。
祖母ちゃんも泣いていた。
何度も何度も僕に謝りながら、両手で顔を覆う母ちゃん。
だから
だから言えなかったんだ。
母ちゃんと祖母ちゃんが、きっと悲しむって分かっていたから。
僕もいつしか一緒になって泣いていた。
泣きながら、今日父ちゃんに逢ったことを伝えた。
そして、父ちゃんに強い心をもらったことも伝えた。
父ちゃんの話をどこまで信じてもらえたかは分からないけど、母ちゃんはいっそう大きな声で泣き、父ちゃんの遺影に深く頭を下げてお礼を言っていた。
翌日、学校を出ようとする僕を真二くんが呼び止めてきた。
真二くんの側には、他に二人の同級生もいた。
三人が、僕を校舎の裏へと連れて行く。
「おい、今日こそはちゃんと持ってきたんだろうな？」
いきなり胸倉を掴み、真二くんが鋭い目つきで睨んできた。
「い、いや……持ってきてないよ。というか、持ってくる気はない」
僕は、震える声でそう言い返した。
「なんだと、てめえっ！」
真二くんは物凄い力で僕を突き飛ばした。
泣くな、負けるな、怖気づくな！
ここで勇気を出さないと一生後悔する！
父ちゃんの顔が頭に浮かび、いままでにないくらい体が熱くなった。
後はもう無我夢中だった。
僕は叫びながら真二くんに体当たりした。
二人の同級生が見守るなか、倒れた真二くんに勢いよく殴りかかっていく。
真二くんも下からパンチを繰り出し、後で聞くと壮絶な殴り合いをしたらしい。
途中で二人の同級生が止めに入ったので、どっちが勝ったのかは分からなかった。
でも、勝ち負けなんかどうでもよかった。
真二くんに立ち向かう勇気が、強い心が僕にもちゃんとあったんだ。
それを知ることが出来ただけで、僕は嬉しくて堪らなかった。