熱い幻-4
どれくらいそうしていただろう……。
父ちゃんがおもむろに夕暮れの空を見やり、ムクッと起き上がる。
そして、何も言わずにただニコッと笑ってから背を向けた。
あっ……父ちゃん!
と、父ちゃん!?
と……とう……ちゃん……!?
僕を残し、沈む夕日に向かってスタスタと歩いていく父ちゃん。
その姿を、僕は何も言えないまま黙って見送っていた。
久しぶりに聞く父ちゃんの言葉は、とても温かくて、優しくて、そして、とても悲しかった。
僕は、急いで家に帰ってすぐに祖母ちゃんへ今あったことを告げた。
「あははっ、そやん事があるかいな。その話は後でゆっくり聞いてやるけん、ほれ、これを父ちゃんの仏壇にあげてきなさい」
父ちゃんが生きていたって事を、祖母ちゃんはまるで信じようとしなかった。
夢でも見たんじゃろうと、ケラケラ笑うだけだった。
そんな祖母ちゃんに少しムッとしながら、僕は小さなお椀のようなものに詰めたご飯を父ちゃんの遺影が置いてある仏壇へと運んだ。
本当に父ちゃんは生きていたのにさ……ねえ、父ちゃん。
呟きながら父ちゃんの遺影に目を向けた僕は、ギョッと目を見開いてご飯を下に落とした。
と、と、父ちゃん―――
父ちゃんが……父ちゃんが笑ってる―――
いつもキリッとした勇ましい顔で僕を見続けていた遺影の中の父ちゃん。
それが、どういうわけか満面の笑みに変わっていた。
と、父ちゃん……。
しばらくのあいだ呆然とその笑顔を見ていたけど、不意に胸が高ぶって涙がポロポロと溢れてきた。
と、父ちゃん……僕、絶対に強くなるよ。
そして、絶対に母ちゃんを守っていく。
約束するよ。
男と男の約束だよ。
ありがとう……父ちゃん。
僕に逢いに来てくれて、ほんとにありがとう……父ちゃん。