熱い幻-3
「母ちゃんは元気にしてるか?」
「うん、元気だよ! 仕事は大変そうだけど、でも元気にしてるよ!」
「そっか……」
「わあ、父ちゃんだ、父ちゃんが帰ってきた〜!」
浮かれる僕の頭を撫でながら、父ちゃんがニンマリと笑いかけてくる。
ずっと見たかったその笑顔に、僕はもう空でも飛べそうなくらい心を弾ませ浮き立たせた。
同時にものすごい歓喜が胸を押し上げてきて、体がブルブルと震えていく。
目からは、大粒の涙が次から次へとこぼれ出てきていた。
「いいか幸太、よく聞け」
「う、うん!」
泣きじゃくる僕をなだめながら、父ちゃんが優しい声で語りはじめる。
「父ちゃんはもうお前達とは暮らせないんだ……」
「えっ? ど、ど、どうしてっ!?」
「だってさ、ほら、父ちゃん死んじゃっただろ?」
えっ?
えっ?
どうして?
父ちゃん、ちゃんとここにいるじゃないか??
僕には父ちゃんの言ってることがぜんぜん分からなかった。
「いまの父ちゃんにはな、お前達を遠くから見守ってやるくらいしか出来ないんだよ。だから、今日はどうしても幸太にお願いがあってここへ来たんだ」
「えっ、いやだよ、一緒に帰ろうよ、どこへも行かないでよ、僕と母ちゃんのそばにずっと一緒にいてよ!」
また父ちゃんがいなくなってしまう……僕は、父ちゃんの服をギュッと掴んで強くお願いした。
「ごめんな……」
父ちゃんは、とっても悲しい顔でちいさく首を横に振った。
「幸太、お前は男だ。強い男だ。お前の体には父ちゃんと同じ血が流れている。だから、いいか、頑張って勇気を出せばきっと父ちゃんのように強くなれる」
「とう……ちゃん……」
「幸太、母ちゃんをしっかりと守ってやってくれ。なっ」
「と、父ちゃん……ヒック、ヒクッ……わ、わかったよ。でも……でも……」
「しかし、ずいぶんと見ない間に立派な男の顔つきになってきたじゃないか……父ちゃん、父ちゃんさ、ほんとに嬉しいぞ」
少し涙ぐんだような顔でそう言いながら、父ちゃんがそっと僕の頬に手をあててきた。
大きな手で僕の頬をはさみ、ジッと顔を見つめてくる。
父ちゃんの力強い眼が、僕の心に棲んでいる『弱虫』たちを一匹残らず追っ払っていく。
しばらくして、父ちゃんはグッと唇を噛みながら強く僕を抱きしめてきた。