熱い幻-2
パシャン
パシャン
僕の投げる石が、夕焼けに染まった水面に丸く波紋を広げていく。
川に向かってひとりで石を投げることが楽しいなんて……僕はほんとに、平気で嘘をつくようになってしまった。
その場にしゃがみ込み、膝を抱えて体を丸くする。
僕は心の中で父ちゃんのことを考えていた。
強くて頼もしくて、そして、とっても優しかった父ちゃん。
僕にちょっとでも悲しいことがあると、黙っていても父ちゃんはすぐに気付いてくれた。
何を聞くわけでもなく、そんなときは決まって『幸太! 公園に行くぞ!』と大きな声で叫び、無理やり僕を外へ連れ出す。
公園に着くまでずっと肩車し、僕が我慢できずに泣きだしたりしても、父ちゃんはけっして笑顔を絶やさなかった。
何があったのか、何も聞かない。
ただ大きな声で笑いながら、僕が聞こうと聞くまいと関係なしに面白い話をひたすら続ける。
そんな父ちゃんといると、僕の悲しみなんていつも簡単に消えていた。
「父ちゃん……」
ぼそっと呟きながら、僕はまた泣いていた。
真二くんが怖くて逆らえない。
意気地なしの心に、反抗心なんてものはちっとも湧いてこない。
明日、五十円を持っていかなかったら本当に殴られるかもしれない……。
僕は、込み上げてくる怖さと情けなさに、もう声を上げて泣いていた。
「元気ないなぁ、どうした?」
いきなり背後から肩を抱かれ、僕はビックリして顔を上げた。
「よっ!」
「えっ……? と、父ちゃん……?」
「久しぶりだな〜、幸太!」
「と、と、父ちゃん!? 父ちゃんだぁ!」
「おいおい、そう何度も呼ぶなって」
「と、父ちゃん……父ちゃん……父ちゃーん!」
何がなんだか分からなかった。
夢だろうが幻だろうが何でもいい!
僕は大声で『父ちゃん』を連呼しながら目の前の父ちゃんにしがみついた。
「幸太、なにをメソメソしてたんだ?」
「うっ、うぐっ……ヒック……な、なんでもないよ、なんでもないんだ。だから心配しないで。ううっ……父ちゃん、父ちゃん」
僕は、父ちゃんの広い胸にぐりぐりと顔を擦りつけた。
父ちゃんだ!
父ちゃんが帰ってきた!
心をひどく締め付けていた嫌なものが、一瞬にして消え去った。