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『ざらめ色の雪』
【初恋 恋愛小説】

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『ざらめ色の雪』-1

 恋する心には年齢や性別なんかは関係がない。たとえそれが中学生だろうが小学生だろうが、真剣さには大人となんら変わりはないのだ。大人になった今、切実にそう思う。

 「倫子(みちこ)のブ〜ス!!」
 「うるさいっ!」
 純一が私を指差してからかった。彼のこの行為はもう半年以上も続いている。いじめではなく愛情表現なのだ、と私は幼いながらに感じ取っていた。
 小学六年ともなれば、同級生の子同士で誰が好きだの、誰がいいだのの話をするものだ。そして、それは女の子の方が多い。みんな心の発育が早く、ませていたと思う。
 私も女の子同士で、好きな人をおしえあったりした。
 「純一ってさ、絶対倫子の事好きだよね!?」
 「そうかな。でも、いっつもからかってくるよ。」
 私も内心そうに違いないとは思いながらも、そう答えた。照れくさいのだ。
 「好きだからからかうんだよ。倫子告白しちゃえば?」
 「え〜、嫌だよ。」
 「絶対両思いだってば。」
 同級生達が私をまくしたてた。二人がどうなるかの興味で。私が失恋した時の事なんか考えない、幼さゆえの残酷さで。


 「絶対告白はしないからね。」
 下校時間を知らせる放送が流れている学校の玄関で、私はさやかと麻実子にそう言った。
 「そっか〜、うまく行くと思うんだけどな。」
 「倫子が告白しないって言ってるんだから仕方ないよ。」
 そういって二人は心底残念そうに言った。
 「ごめんね。じゃあまた明日ね。」
 「うん、バイバイ。」
 「バイバイ。」
 二人に別れを告げ、私は家路への道を歩いた。
 もう一月も終わりだ。寒さで固くなった雪の上を歩くと、ガリッガリッっと氷がつぶれる音がした。
 あと二ヵ月もしないでみんな卒業だ。そして純一とは離ればなれになってしまう。純一はクラスでただ一人、私立の中学への進学が決まっていた。
 私は毎日ぼんやりそんな事を考えながら歩いていた。


 二月になりバレンタインが近づくと、みんなは誰かの家に集まり手作りチョコを作り出す。女の子同士で交換する為だ。
 私も麻実子と一緒にさやかの家に行き、チョコを作った。チョコとはいってもトリュフや生チョコを作るわけではなく、市販の板チョコを溶かして小さなカップに流し込み、アーモンドやカラーチョコでかざりつけをするだけの簡単なものだったが、私たちは楽しく、また真剣に作った。
 「倫子いっぱい作ってるね。」
 「もしかして純一の分?」
 私がチョコを彼女達の倍は作っていたので、あやしまれた。
 実際私は純一に、バレンタインチョコをあげようと思っていた。ただそれを皆の前では宣言したくなかった。からかわれるのが嫌で照れくさいのもあったが、何よりも私の気持ちはみんなに言いふらすような、適当な気持ちじゃない。真剣な気持ちなんだ、と思っていた。
 「違うよ。お父さんの分だよ。」
 「なんだ。つまんないの。」
 彼女達はがっかりした顔をした。私は彼女達の好きな人も知っていたが、別にチョコをあげようとかいう話を聞いたことがなかった。だから、なおさら彼女達の思いが真剣ではないと思った。子供っぽい短絡的な考えだと思う。
 
 
 バレンタインまでの日にちは長いのだか、短いのだかわからなかった。三人でチョコを作った次の日、私は一人で雑貨屋に行き、小学生のおこづかいで買うには少し高いラッピングの箱とリボンを買った。もちろん純一のチョコを包む為の物。そして、試行錯誤をかさね、できるだけきれいに包んだ。
 
 毎日雪の道を考えながら帰った。歩いて十五分程度の通学路を三十分かけて帰った。ただ純一の事を考えながら。いつ渡せばいいかな、放課後かな。やっぱり渡さないほうがいいかな。でも三月には、もう一緒にいられないし。やっぱり渡そう。なんて事ばかり考えていた。

 たくさんの車にひかれた雪は茶色くさらさらになって道路になびいていた。ざらめのように甘い感じがした。幼いその時だけに感じた感性だったと思う。


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