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『ざらめ色の雪』
【初恋 恋愛小説】

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『ざらめ色の雪』-2

 バレンタイン当日は私は朝からぎこちなかった。手提げ袋にこっそり入れてきたチョコレートがみんなにバレやしないかと、ひやひやしていた。そして誰にも気付かれず純一にチョコを渡すには、放課後の帰り道だと思っていた。純一の家の方向に帰る人は少なく、そして遠い為誰も気付く人はいないと思った。

 国語の時間も、算数の時間も、普段は大好きな音楽の時間でさえ、私はぜんぜん集中できなかった。私のぎこちない態度を感じとってか、純一も今日はからかってこなかった。それがまた寂しかった。

 帰りの会をやって、みなさんさようなら、の合図でみんなが一斉に教室を出た。私は今日は用事があるから、と言って女の子達に別れを告げた。そして、私の家の方向とは逆に歩き始めた。純一の背中を見失わないように。
 普段通らない道路は、まるで違う街のようだった。そして、その街を歩く純一も、いつもとは違う人みたいだった。

 私は後ろから声をかけて、チョコを渡したら走って帰ろうと思っていた。それなら恥ずかしくないと。
 しかし、いざ声をかけようとしても、声が出ない。何度声をかけようとしても勇気が出ない。普段はあんなに普通に話すことができるのに。
 だんだん近づいてくる純一の家に私は焦りをかくせないが、やはり声はかけられなかった。
 家のドアを開けて入っていく純一を、私は見つからないところから見ていた。 もう玄関のチャイムを鳴らして出てきてもらうなんて事はできない、と思った。私は絶望した気持ちでチョコの入った袋をそっと玄関におき、走って帰った。
 
 チョコの包みには名前を書かなかったのに、次の日から純一の態度がよそよそしくなった。私からのものだと気付いたのだろう。卒業する頃には一言も口を聞かなくなっていた。幼さゆえの気まずさがあったのかもしれないし、純一も照れくさかったのかもしれない。でも、私はチョコをあげた事を後悔していなかった。

 卒業式の日、家に帰っていく純一の後ろ姿を見て私は泣いた。まわりの同級生や親の目も気にせずに。姿を見るのはこれが最後だと。私は初めて恋愛で涙を流した。熱い真剣な気持ちだった。

 大人になって、あれほど純粋に誰かを好きになったことはないような気がする。あの頃はいつでも相手の事を考えていた。大人には肉体関係という別の愛情手段があるから、純粋な恋愛感情は薄れてしまうのかもしれない。

 今でも雪の日の夕方に外を歩くと、あの頃の懐かしい気持ちで胸が痛くなる。


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