青空の下で-1
野鳥のさえずりを聞きながら
蝉の鳴く頃、まだ朝日が昇ったばかりの時間に沢野真理子は起床した。
寝起きの腫れぼったい瞼を擦り、ひとりキッチンでもくもくと調理を開始する。
トントントンッ―――
軽快にまな板を叩く包丁の音。
その音に気付いた2人の子供達が、わあっと声を上げながら部屋を飛び出してきた。
真理子のまわりをグルグル駆け回り、お尻をバシバシ叩きながら笑い声をあげる子供達。
「もう、邪魔だから、ほら、あっちで遊んでなさい」
母親の言葉も、浮かれたった子供らには全く聞こえない。
朝っぱらから、家の中はやかましいほどに賑わいだしていった。
これだけ子供達が騒いでいるのに、まるで起きてくる気配を見せない夫の健太郎。
(まったく、これだけ派手に騒いでんのによく寝てられるわね……)
神経質の真理子は、健太郎の図太さをつくづく羨ましく思った。
わんぱく坊主2人の相手をしながら、馴れた手つきで淡々と調理をすすめていく真理子。
今日はいつもより熱が入っている。
うん、何とも豪勢な弁当だ。
子供達も、バタバタと走りまわっては弁当の中を覗き込み、互いに顔を見合わせてはニンマリと笑った。
「ねえシンちゃん、ちょっとパパを起こしてきてくれないかな?」
「あーい!」
ふっくらと仕上がった玉子焼きを口いっぱいに頬張っていた長男が、真理子の言葉に元気よく二階の寝室へ駆け上がっていく。
「ふぁ〜、おはよう」
「んもう、おはようじゃないでしょ。ほら、もう山田さん達がきちゃうわよ、あなたも早く用意して頂戴」
この日、真理子たち家族は夫の友人である山田家と中島家の3家族でハイキングへ行くことになっていた。
豪勢な弁当と子供らのはしゃぐ理由はこれだった。
真理子は、寝ぼけ眼の夫を急かしながら、自分も急いで着替えをはじめた。
部屋着のスカートを脱ぎ、ピッチリとした真っ白いスリムパンツに脚を通していく。
上は無地のTシャツにデニムのサマージャケットを選んだ。
着替えを終え、アイボリー色のシンプルなハットを何度も被りなおしては鏡の前で軽いポーズをとってみる。
「うん、バッチリ! わたし、ひょっとするとまだ二十代前半でも通用するんじゃないかしら? うふっ、中島さんに惚れられちゃうかも」
夫と戯れる子供達の声を聞きながら、真理子はほんの少しだけ女の自分を見つめてみた。
暑いからと、ワンレングスの髪をショートにしたことで見た目がグンと若返り、気持ち的に肉体までもが若さを取り戻した感じがする。