放課後のY先生-1
職員室には、キーボードを叩く音だけが響き渡る。
「はぁ…やんなっちゃう」
昨日もおとといも、職員室には私、山井由希一人だ。
先週一週間は当直の先生と二人だった。
今週の当直は私なので、つまり一人。
本当に、私の仕事の遅さには我ながら呆れる。
…最近の理由はそれだけではないけど。
ふぅ、と息を吐くと、扉が開く音がした
「山井せんせーどうもでーす」
また来た。
「倉本君、もう下校時刻とっくに過ぎてるじゃないの」
「まぁまぁいーじゃないの。絆創膏ちょーだいよ」
私は鞄から絆創膏を一枚とって倉本ハルに手渡した
「サンキュー」
「絆創膏なら保健室でもらえばいいでしょ」
「由希ちゃんから貰うのは特別なわけよ」
「またそういうこと言って」
私はパソコンに向き直る
「ねぇせんせー」
「仕事中」
「…由希ちゃん、愛してるよ」
「やめてよ、いつもそういうこと言って」
「だぁってさ…」
ハルが後ろから私に抱きつく
「由希ちゃん、最近元気ないんだもーん」
「ちょっと…やめて」
「…『お前、真面目過ぎてつまんないんだよ』」
さっき読み返したメール文を読み上げられて驚く。
振り返ると、いつ取ったのかハルの手に私の携帯電話が握られていた。
「ちょっと!人のもの勝手に…」
「『いつも受身で、何したいのかわかんないし』」
「やめてってば!…わっ」
バランスを崩してハルの胸にぶつかる
離れようとしたが、抱きしめられて身動きが取れない
「離してよ…」
「由希ちゃん、別れたの?」
「…振られたの」
そのせいで、仕事も全然手につかない…
「ふーん…
…由希ちゃん、ぜーんぜん『真面目』じゃないのにねぇ?」
「え?ちょっと何…」
少しずつハルの口は下降し、私の耳に息を吹きかける