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スケッチ
【学園物 官能小説】

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スケッチ-1

「やっぱりダメかな?」
先輩は苦笑いで言う。
私はほとほと困ってしまう。他でもない先輩のお願いだ。断れないわけがない。
でも、でも……
「良いんだ、無理を言っていることはわかってるからさ」
先輩の声には少々諦めが混じり始めていた。
放課後の美術室。この1年と半年、私と先輩だけで過ごした思い出のいっぱいつまった場所。
そこを秋の日差しが柔らかく包んでいる。窓から見える校庭からはどこかの運動部のかけ声が聞こえる。
取り留めもない日常。それは明日も明後日も明々後日も変わりなく続いていくはずだった。
「ただ、もう僕は部に来られなくなるから、最後にどうしてもカナを描きたかったんだ」
先輩はもう部に来られない。中学三年生である先輩には高校受験が迫っているのだ。
私は先輩の辞めた後の部が怖くてたまらない。美術部は私と先輩の2人しかいないから、先輩が辞めると私は1人になってしまうのだ。
そして、同時に私は思う。先輩の最後のお願いくらい聞いてあげたい、と。
どうしようもなく不器用な私に手取り足取り絵の基礎を教えてくれた先輩にせめてもの恩返しがしたかった。
「や、やります……!」
自分でも情けなくなるくらいの小さな声。何とか絞り出した声だった。
「ホント!ホントに!」
それを聞いた先輩の顔はわかりやすいほど明るくなる。パアッと輝く笑顔はまるで子供のようで、何だかこっちまで幸せになるほどだった。
そして、その時気が付いた。
私は先輩のこの笑顔が好きなんだ、と。



初めから無理なお願いだと思っていた。
だから、カナがそれを承諾した時は心底驚いた。
たしかにやることは至極簡単である。
服を脱げばいい。ただ、それだけだからだ。
だが、僕とて14歳のうら若き乙女の裸体がそう易々と拝めるとは思わない。
恥じらいもものすごく強いはずだし、それこそ誰の目にもその裸体が触れたことがないかもしれないのだ。
いくら先輩のお願いとは言え、承諾してくれるはずがない。
そう思っていた。そう思っていたのだが。
繰り返すようだが、彼女は承諾した。
僕のヌードモデルになってくれることを承諾したのだ。
嬉しい誤算だった。芸術家の端くれとして是非女性の裸体を描いてみたかったのだ。
それもできるだけ若い……いや、もっとも美しい状態での女性の裸体を。
「じゃあ、早速で悪いのだけれど、服脱いでもらえるかな」
胸はこれ以上ないくらいに高鳴っていた。
美しいモノを描こうと思うのは、僕のような未熟な絵描きでも何ら変わりはない。
カナは擦ったら消えてしまうんじゃないかと言うほど、儚げな女の子だった。それはおそらく端正な顔立ちと雪のように白い肌と線の細い身体のせいだろう。綺麗ではあるが、あまり目立たないのだ。日陰に残る残雪のように。
「はい」
カナは消え入りそうな声で言う。
それを聞くとさすがに僕の心にも罪悪感が沸いた。
胸の高鳴りは急に萎えていく。
「無理にとは言わないから、その、恥ずかしかったら別に良いよ?完全に僕の我が儘だから」
カナはかぶりを振る。
そんな健気なカナの姿は可愛かった。
きっと、彼女は引退して部を離れていく僕へのせめてもの恩返しに、とでも思っているのだろう。
---ロクなことしてあげてないけどな
でも、僕は知っていた。
彼女はそういう子なのだ。僕が親切だと思わないことにも親切心や恩を感じてしまうそんな子なのだ。
1年と半年もこうして2人で飽きもせず顔を付き合わせてきたのだからよくわかる。
彼女はこっちが呆れるほどに優しい子だ。


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