StealthB-1
作戦を失敗した2日後、アイ・オフィスに2人の男が訪ねて来た。
「…邪魔するよ」
ソファに寝そべる恭一の前に、ひとりは40代くらいでメタリック・カラー、もうひとりは30代でネイビーのスーツ姿で立っていた。
2人を見るなり、恭一は笑顔を向けると、
「やあ、佐倉さんじゃないですか。久しぶりですね」
年輩の方に話掛けた。お互いは旧知の仲だった。佐倉と呼ばれた男は、恭一の対面に腰掛ける。
「この近くまで寄ったんでな」
「嬉しいこと言ってくれますねえ…コーヒーでもどうです?」
佐倉が“じゃあ頂こうか”と言うと恭一は立ち上がり、となりの給湯室で湯を沸かし始めた。
「ところで佐倉さん、おとなりは?」
コーヒーをカップに注ぎながら、恭一が訊ねる。
「…ああ、おまえは初めてだったな」
佐倉がアゴをしゃくって挨拶を促すと、ネイビーのスーツ姿の男はソファから立ち上がった。
「〇〇県警、捜査3課の宮内といいます」
「捜査3課というと、窃盗、強盗関係ですね。佐倉さん、1課からご栄転ですか?」
コーヒーをテーブルに置きながら恭一が訊くと、佐倉は苦笑いを浮かべて、
「残念ながら左遷だよ」
「そんなこと無いでしょう。数々の難事件を解決された佐倉さんが?」
「…まあ、そんな話はどうでもいいさ…」
そう言ってソファから前屈みになり、真剣な目を恭一にむけた。
「実は先日、播磨重工のビルで窃盗未遂事件が起きたんだ」
「へぇ、それは物騒ですね。それで?」
恭一はあくまでとぼけた表情で受け答えた。佐倉は気にせず続ける。
「…警備員の話では、犯行に使われたクルマはかなり古い年代モノで、軽自動車のように丸っこい形だったらしいんだ」
佐倉が内ポケットから出した写真には、ルノー4が写っていた。
「この県下で、この車種、この色に乗っているのは6人しかいないんだ」
「…つまり、私のクルマを調べたいと?」
「まあ…そういう事だな」
佐倉は探るような目で恭一の反応を窺う。が、彼はニンマリと笑うとポケットからカギを取り出した。
「どうぞ、どうぞ!それで私の疑いが晴れるならいくらでも調べて下さい」
その表情を見た途端、佐倉は“おかしい?”と思った。恭一からカギを受け取ると3人で階下に降りて行った。ビルの駐車場には、オフホワイトのルノー4が停まっていた。