StealthB-8
「この事を含めて、佐倉はオレを疑いに掛かるだろう」
「なるほど…」
「普通ならほとぼりが冷めるまで放っておくが、今回はそうもいかん。クライアントとの期限は後、9日だ…」
五島は心配気な顔で恭一に訊いた。
「期限を延ばせないのか?」
「無理だな。ヤツは期限を過ぎれば切ると予め言っていた」
「…そうか…」
2人の間に沈黙が続く。重苦しい雰囲気が垂れ込める。
「…じゃあ、この話は無しだな」
ため息混じりに五島が呟いた。恭一はその顔を見て訊いた。
「何の話だ?」
「何だは無いだろう。おまえが指示した、あのビルから出る送信電波の件だ」
そういえば、五島と最初の打ち合わせをした時、自分から頼んだ事だった。恭一はすっかり忘れていた。
「分かったのか?」
「ああ、おまえの推測通り、午前零時に送信している。もっとも、暗号化した数字だがな」
そう恭一に語る五島の口ぶりは、自信に満ちていた。
「五島。おまえがそれだけ自信を持って言うんだ、当然、その受信場所と暗号化した数字の解読法を分かってるんだろう?」
恭一の言葉に、五島は頬を赤らめる。
「まったく…かなわんな…」
言葉を漏らすと険しい目で恭一を見つめた。
「ビルから出る電波は石垣島にある、民間のデータ保管庫が受信元だ」
「データ保管庫にか…」
「ああ、それから、送信データの一部をインターセプトして、取り込んだ数字を暗号解析したのが……」
五島はそう言うと、ポケットからキレイに畳んだ1枚の紙を広げた。それをまじまじと見つめる恭一は顔を上げた。
「おい、これって…」
五島も厳しい顔で頷く。
「…ああ、思った通りのデータだ」
(おそらく、高鍋が狙っているのはコイツだ…)
「ところで、一緒に頼んでいた“例のモノ”は?」
「それも調べた。聞いたらおまえでも驚くぜ」
五島はジャンパーのポケットからレコーダーを取り出すと、スイッチを入れた。
雑音混じりに聞こえる音声は、恭一が漠然と思い描いていた事を裏付ける内容だった。
(…やはりな…)
その瞬間、恭一の頭にスパークが走る。彼は弾かれたように給湯室にむかうと、隠していた播磨重工ビルの竣工図を持って来た。
「…お、おいっ、どうしたんだよ?」
五島の問いかけにも、恭一は答えること無く図面に集中する。描かれた線や工法に指差しながら辿っていると、
「あった!」
彼はビルの基礎図面の地下部分を指差した。