StealthB-2
「どうです?何か出ましたか」
車内をくまなく探る2人のとなりで、余裕綽々な表情を見せる恭一。佐倉は諦めたという顔でカギを返した。
「また、いつでもいらして下さい」
平静を装った顔の佐倉は、恭一の目を見て手を差し出す。
「近いうちに、また来るよ」
「ええ。今度は令状を持ってお願いしますよ」
恭一は佐倉と握手を交し、同様に彼の目を見て微笑んだ。
佐倉と宮内は帰っていった。その姿を恭一は見えなくなるまで眺めた後、ビルの中へと消えた。
播磨重工ビルの7階に設けられた会議室。巨大な楕円形の机だけのガランとした部屋に、男が3人座っていた。県警の佐倉と宮内。もうひとりは、今田だった。
「すると、あなたは規則違反と知っていて業務中にビルの外に出たんですね?」
佐倉は、ジッと今田を見つめながら質問を続ける。事件当日から続く事情聴取。
県警は未遂ということもあり、唯一の目撃者であり被害者である今田に支障が無いよう会社で行っていた。
「ええ…私はタバコを吸うもので、新商品が出たらつい買いたくなって…社内の自販機には無かったので、つい…」
もっともらしい答え。だが、佐倉はそれが引っ掛かる。彼はさらに訊ねる。
「今田さん。以前にもタバコの新商品を求めて規則違反である屋外外出をされたことは?」
今田は天井を仰ぎ考え込む。
「無かったと思います…」
「そうです。あなたがここに異動されて5年間、タバコの新商品はかなりの数が発売されました。
だが、あなたは1度も規則違反を冒していない。それが、何故一昨日に限って冒したのです?」
鋭い指摘に、今田の顔はみるみる蒼白に変わった。
「…それは…たまたま…」
「たまたま?賊が待ち構えてる一昨日だけ出ていったのは、たまたまですか?」
「刑事さん!それ、どういう意味です。それじゃまるで、私が賊の一味のような言葉ぶりじゃないですか!」
今田は、白い顔を真っ赤に変えて佐倉に食って掛かる。
「…私は被害者ですよ!ナイフを突き付けられ、イスに縛られたんだ。どこにそんな証拠があるんです!」
「確かに目撃者であり被害者でしたな。しかし、賊もよくあなたが出てくるのを知ってましたよねえ」
佐倉は、優しく今田に語り掛ける。
「話にならない…勝手な推論で犯人扱いされちゃ堪ったもんじゃない!」
今田は席を立つと出口へと向かった。
「今田さん。近いうちに、また会いましょう」
背中越しに掛けた佐倉の言葉に、今田は反応することなく会議室を出ていった。
播磨重工ビルを後にした佐倉と宮内は、クルマで署へと向かっていた。