ポッキーとプリッツ〜ある二人〜-1
冬も近くなってきた。夕暮れ時の商店街を家に向かって歩く。
肉体労働で疲れた身体には、食材の入った買い物袋すら重く感じる。
黄昏時の陽光を跳ね返す敷きつめられたタイルの上を、学校帰りだろうか。二人の男女が並んで歩いていた。
「……若いなぁ」
自分にもあんな少年時代があったことを思い出し、少し笑った。
「ただいま」
少し古ぼけたアパート。そこが今の俺の家。扉を開けて帰宅を告げると、キッチンからは微かに声が聞こえた。
「食材、買ってきたよ」
キッチンへ食材を運ぶ。下準備を始めていた彼女は、大袈裟なリアクションで喜んでくれた。
「懐かしいね」
彼女の不意な言葉に俺は首を傾げた。
「なにが懐かしいんだ」
「これ」
彼女はそう言って俺の目の前にあるものを差し出す。それは今日買った物の中に入っていた二種類のお菓子。
きっと大体の人ならば食べたことがあるであろう細く焼いた生地をチョコでコーティングしたお菓子と、焼いた生地そのものに味を付けたお菓子。
彼女は前者が大好きで、俺は後者が好きだ。
そう言われてはたと思い出す。彼女が懐かしいと言った訳を。途端に顔が赤くなったのを感じた。
「止めろよ、恥ずかしい」
「いいじゃない。そのおかけで今こうしているんだし」
彼女の顔が悪戯を思いついた子供のように微笑む。もう十年ほど一緒にいるが、この笑みだけはいつまでも変わらない。