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『涙の理由(ワケ)』
【初恋 恋愛小説】

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『涙の理由(ワケ)』-1

夜勤明けの眼に痛い位の太陽光が降り注ぐ。
私は顔をしかめながら、やっと家に辿り着いた。
いつも空のポストには、往復ハガキが一通入っていた。
玄関を開けると、閉め切ったワンルームの部屋から熱気が溢れ出す。
部屋へ入った私は窓を開け、着替えもせずにベットへ横になる。
私の手の中には、さっきポストから取り出した一通の往復ハガキ。
【小糸中学校同窓会のご案内】
―――中学校…
目を閉じると、浮かんだのは夏の光景。
そう。
今日の様な夏の日だった。


鋭い陽射しに肌を刺され、熱いくらいの空気に汗がにじんだ。
向かい合う、私と彼。
あれは3年生の夏だった。
すでに引退していたが、テニス部だった私は真っ黒に日焼けしていた。
背が高くショートカットだったせいもあって、良く男の子に間違われていた。
彼は元サッカー部で、カッコイイと言う程ではなかったが、明るくて面白くて、結構人気があった。
2年生の時は同じクラスで仲が良かったが、どちらかというと男同士の感覚だった。
3年生で別のクラスになってからも、サッカー部とテニス部の活動場所が隣り合っていた事もあって、部活の後などは良く話をしていた。

「好きなんだ」
向かい合っていたその彼が突然口を開いた。
「ずっと…好きだった」
彼は繰り返す。
私には、何が何だか解らなかった。
頭が真っ白だった。
いや、正確には色々考えすぎて訳が解らなかったのかもしれない。
彼は同じクラスでテニス部の部長でもある文子が好きだという噂だったし、文子も彼が好きだと言っていた。
「何、言ってるの?冗談でしょ?!ヤダなぁ!からかわないでよ〜!!」
色々考えた結果、私の出した答えはこれだった。
ひょろ長くて真っ黒で男の子みたいな私を好きになる訳が無い。
きっとからかわれてるだけなんだ。
物影に他の男子が隠れてて、私の戸惑う様子を見ているに違いない。
私はそう思って、笑って言いながら彼を見上げた。
彼は、真剣だった。
「冗談なんかじゃない!俺は…俺は去年からずっとお前が好きで、クラスが変わってからもずっとお前を見てた。俺、お前みたいに頭良くないし、高校は離れちゃうから…だから、今言っとかないとって。」
彼は言葉に詰まりながらも一気に言って
「俺と付き合ってくれ!!」
突然、私を抱きしめた。
背が高めの私よりも、彼は頭一個大きくて、私はすっぽり抱きすくめられる形になった。
「そんな事急に言われても……だって、文子は??」
私は動揺していた。
初めて告白された事。
初めて抱きしめられた事。
そして、突然男友達が男の人へと変わった事に。
「あいつは…みんなが勝手に言ってるだけだよ。俺が好きなのはお前だけだ。」
言って、彼は一度私から体を離し私の目を見た。
私は俯く。
彼の事は嫌いじゃない。
話してて楽しいし、一緒にバカな事もたくさんした。
でも、私は何も答えられなかった。
私は男の子みたいだったし、だからこそ、彼とはずっと友達のままだと思っていた。
沈黙が続いた。
蝉の声が、やけに大きく響く。
「アン…」
沈黙を破ったのは彼だった。
俯いたままの私の名を、彼が呼んだ。
私は顔を上げる。
彼と目が合った。
「んっっ」
彼の唇が私の唇に触れた。
「俺の事、嫌いか??」
彼は驚いている私に言う。
私は、そう、今度こそ頭が真っ白で
―――ドンッ!!
彼を突き飛ばして駆け出していた。
どうやって帰ったのか覚えていない。
気付いた時には部屋で息を切らせていた。
「はぁっはぁっ……ふっ……」
なぜか解らないが、涙が出た。
突然キスされたから?
違う。確かにびっくりしたけど、イヤじゃなかった。
じゃぁ、何で泣いてるの?
わかんない。でも、友達だと思ってたのに…
でも、キスはイヤじゃなかったんでしょ?
そうだけど…でも……
私は自問自答を繰り返してた。
いくら繰り返しても、答えは出なかった。


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