『涙の理由(ワケ)』-2
その後の夏休み中、彼に会う事は無かった。
何度か家に電話があったが、私は一度も出なかった。
答えが見つからないまま会うのが怖かったのだ。
始業式、体育館に移動する途中彼を見掛けた。
文子と話をしていた。
―ズキン
胸を掴まれたような感覚がした。
「あ…」
一瞬、彼と目が合う。
彼は眉を寄せ、目をそらした。
怒った顔にも、泣きそうな顔にも見えた。
―ズキン
また、胸が痛んだ。
それから彼は、廊下ですれ違っても私と目を合わせなかった。
その度に胸が痛んだが、私は何も考えずに勉強に打ち込んだ。
受験も本番を迎える2月、私は推薦をもらってみんなよりちょっと早く志望校に合格した。
その数日後、文子から電話があった。
「アン、合格おめでとう!
あのね、私からも報告があるの。
実は昨日、佐々木くんに告白してね、付き合う事になったんだ。
受験なのにって思われちゃうかもだから、言おうかどうか迷ったんだけど、彼とは志望校も一緒だし、一緒に受験頑張ろうって…」
彼女はとてもうれしそうだった。
私は途中から、彼女が何を言っているのか解らなかった。
適当にあいづちを打って、電話を切った。
涙が溢れた。
何で泣いてるの??
今度はすぐに答えが出た。
私は、彼が好きだった。
気付かない振りをしてただけ。
胸の痛みの理由も本当はわかってた。
気付かない振りをしてただけ。
涙は止まらなかった。
何であの時すぐに返事をしなかったんだろう?
何で電話に出なかったんだろう?
何で学校で話し掛けなかったんだろう?
自分を責めた。
あの頃、私は幼く、臆病だった。
昔懐かしい思い出に想いを巡らせ、目を明ける。
窓の外には相変わらず、あの日と同じ夏の陽射しが降り注いでいる。
私はベットから起き上がり、往復ハガキの返信用を切り離すと、『出席』に丸を付けてカバンに入れた。
幼かった私と彼も、もう24だ。
彼は今、どうしているんだろうか……
そんな事を考えながら再びベットに横になり、少し涼しい風の入り始めた部屋で眠りへと落ちていった。