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夏の終わりに
【教師 官能小説】

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夏の終わりにB-6

「このマンションはね、6階まではシングル用で、それ以階はファミリー用なの…」

 昇っていく途中、篠原は笑顔を湛えて話掛ける。

「だから、ご家族と相乗りなんかするとこっちが緊張しちゃって…」

 やがてエレベーターは減速し、“ポンッ”という柔らかい音とともに扉が開いた。
 エレベーターを出て左に折れて通路を進んで行くと、

「ここよ…」

 504と貼られてる以外、何の装飾もないドア。女性の部屋は入口からオシャレだと思い込んでいた私には意外に映った。

 篠原はカギを差し込みドアを開く。途端に準備室で嗅いだ甘酸っぱい匂いがした。

「お邪魔します…」

 玄関から奥の部屋へと続く途中に、数枚の絵が飾られていた。いづれも建物と人物からなる絵だが、その独特な雰囲気から同じ作者だと分かった。
 ジッと見つめていると、篠原が振り返る。

「それね、遠藤〇子の作品なの…もっとも、リトグラフだけどね」
「…なんだか、先生の絵に似てますね…」

 篠原は自分のキャンバスをまじまじと見つめ、

「…初めて言われたけど、そうかもね。彼女に憧れて武蔵〇芸大に入たんだから」
「ボクはよく知りませんけど…何となく似てるなって」

 私の言葉に照れたように微笑んだ。

「とにかく、部屋に入って荷物を降ろしましょう」

 部屋は10畳ほどのフローリングの床で、大きな本棚にソファ、小さなテレビとテーブルしかなく、そのことが余計に広く感じさせた。

「荷物はそのへんに置いて」

 私が部屋の隅に荷物を降ろすと、篠原は窓際に置かれた三脚にキャンバスを乗せた。

「すぐ夕食にするから、これでも飲んで待ってて…」

 篠原は買物袋からスポーツドリンクを取り出し、私に渡すと気忙しくキッチンへ消えた。
 ひとり残された私は、やることもなく部屋を見回す。寂しげな空間。その中で、三脚のキャンバスだけが際立って見えているように感じた。

(待つのは苦手だな…)

 私は立ち上がるとキッチンに向かった。

「先生!何か手伝わせて下さい」

 私が現れたことに、篠原は驚いた様子だ。

「いいから、部屋で待ってなさい」
「いえ、ジッと待ってるのは何か苦手で…」

 私のわがままを、篠原は快く応じてくれた。

「…じゃあ、お願いしようかな?」
「ハイ!何でも言って下さい」

 私は篠原のそばに立ち、料理の手伝いをする。野菜を洗ったり、煮込んでいる鍋を混ぜ込むなど行った。
 時折見せる笑顔。そのナチュラルさが新鮮に映る。私はいつまでも見ていたい思いだった。


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