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夏の終わりに
【教師 官能小説】

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夏の終わりにB-4

その翌日から私はモデルに行かなかった。部活を終えても、校舎の前を走り抜けて帰った。





「正吾、電話」

 それはある日の夕食時に掛ってきた。私は母に言われるまま受話器を取った。

「はい、正吾です」

 相手は篠原だった。

「ショウ君…私が悪かったわ…反省してる…」

 彼女は、ありとあらゆる謝罪を私に述べた。その口調から推測すると、酔っていると思わせる程、饒舌に喋っていた。

「…もう、気にしてませんから…」

 私は、それだけ言うのが精一杯だった。

「ところで、明後日は部活が休みなんでしょう。家に来てくれないかしら」
「どういう意味です?」
「あの日から絵が止まってるのよ…」

 篠原の声は、甘く私を誘う。

「遅れを取り戻したいの…それにね…私、あの日からセックスしてないの。ショウ君としたいの…」

 私は股間が熱くなるのを感じた。

「…分かりました。明日、お邪魔します」

 それだけ言って受話器を戻した。途端に愛理が“誰から?”と訊いてくる。

「野球部の先輩。明日、泊まりに来いってさ…」
「先輩がなんでショウちゃんを?」

 妹にとっては不思議に思えたのだろうか。

「…他にも呼んでるって。新しいチームの話でもしたいんだろ」

 我ながら馬鹿々らしい嘘だと感じた。が、妹も母も私の話を完全に信じ込んでいた。


 翌日。私は数日ぶりに準備室を訪れた。ノックをすると、

「どうぞ」

 昨日の電話同様、篠原は甘い声で出迎えた。私はモデルを引き受けた最初の日のように、緊張して室内に赴いた。

「じゃ、さっそく始めましょうか」
「あ、はい…」

 私が事務的に服を取り篠原の前に立つと、イメージでも膨らませているのか彼女はジッと凝視する。

「…ヨシッ!」

 そう言うと、机に様々な画材をを広げる。途端に甘酸っぱい匂いが鼻についた。絵具の匂い。
 篠原は幾つもある皿に顔料と油を混ぜ、筆にとってキャンバス地の布に塗る。

「……」

 無言で色を見つめる篠原。気に入らなかったのか、別の顔料を加えて再び布に筆を走らす。
 ひとつの色を決めるための真剣さ。私は、そんな篠原の横顔に見惚れていた。

「…よし、これで…」

 何度目かの識色を行い、ようやく色が決まった篠原は頷く。そして、視線を私に移すと初めてキャンバスに色を置いた。

(あんなに迷って、どんな色なんだろう…)

 私は見てみたい衝動にかられたが、真剣な目で筆を動かす篠原を見て動けなかった。

 緊張の静寂が続く準備室。時折、ひぐらしの鳴き声だけが聞こえていた。


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