夏の終わりにB-2
「いえ…ボクも今、来たところです」
「そう…よかった…」
篠原は息も切れ々だった。ヨロヨロと机に近づくと、倒れるようにイスに腰掛けた。
「先生、大丈夫ですか?」
私は思わず篠原に駆け寄った。
「…大丈夫…ちょっと休めば…」
篠原はそう言うと、手にしていたペットボトルを口に当てて傾ける。喉元が大きく上下する姿に、私は視線を奪われた。
「…ふうっ」
ひと心地ついた篠原が私を見た。慌てて視線を外したが気づかれてしまった。
「…どうしたの?」
その顔は、いたずらを考えついたように笑っている。
「い、いえ…別に…」
「私の首元見て興奮しちゃった?」
篠原は人の心を読む術でも身につけているのかと思った。私はズバリ当てられびっくりした。
「それは後でね。まずはスケッチを終わらせましょう」
私は促されるままに、服を脱いで篠原の前でポーズを取った。
もう、裸になる羞恥心は無くなっていた。
「いいわね…」
篠原の表情が変わった。先ほどまで見せたおどけた面は消え、真剣な視線が私に注がれる。
その途端、私は金縛りにでもあったように動けなくなる。呼吸をするのも憚られるような雰囲気が部屋を覆った。
私は人形のように、ただ、彼女の視線に晒されていた。
「ショウ君、見て!やっと出来たわ」
篠原は嬉々した表情をむけて声を弾ませた。それは、私がポーズを取って50分後の事だった。
私は彼女のそばに近寄り、キャンバスを覗いた。それは、ラフスケッチで描かれた肉感溢れるモノだった。
「へぇ〜っ、こんな感じなんだ…」
私は引き込まれた。単に、線と濃淡をつけただけのスケッチだったが、キャンバスに描かれた躍動的な作品に感動した。
喰い入るように見つめる私に、篠原は柔和な顔で答える。
「明日からが本番よ。このスケッチに色を肉付けして、透明感溢れる作品に仕上げたいの」
「なんだか不思議です…自分がこんな風に描かれると…」
私はただ、感動に心が染まっていた。
だが、私の言葉に篠原はニヤリと笑い掛け、
「今日はお祝いしましょう…だから、ショウ君に気持ちの良いことしてあげる」
篠原はそう言うと、上着を脱いだ。