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淫蕩淫魔ト呪持
【ファンタジー 官能小説】

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淫蕩淫魔ト呪持-4

『何、なんだ……!?』
『ほんとなら身体が消えちゃうか、心がおかしくなっちゃうんだけど……』
『?』
『テクニックだけじゃなくて、精力も体力もすごいんだね』
『何を言ってる?』
男は幾分か落ち着いた様子で息を吐き、キルシェを鋭く睨んだ。
『黙っててごめんね。あたしは淫魔――』
『淫魔……だと?』
『淫魔のキルシェ。君、気に入ったよ』
笑みを浮かべ、彼女はぺろりと赤い舌で唇を舐める。
『ふざけ……』
男は口元を歪めて言いかけ、限界がきたのか、そのままシーツに突っ伏してしまった。


その男がズッカ・スーク――悪魔を退治する"悪魔狩り"を生業とする男である。
彼は人間を脅かす悪魔退治を依頼にて請負う悪魔狩りのエキスパート、通称"呪持ち"であった。

「ちょっと、聞こえてるよぉ」
ズッカの呟きに、キルシェは再び唇を尖らせる。
「うるせえ。いい加減俺に付きまとうのは止めろ」
冷たく吐き捨て、ズッカは歩く速度を速めた。
二人の足の長さには大分差があるため、キルシェがズッカの早歩きについていくには走るしかない。
「そんなこと言われたって、ついて行くもん!」
キルシェが走りながら声を上げた。
速度を上げ、ズッカの横に並んだキルシェは彼に言う。
「あの時、気に入ったって言ったでしょ? ずっとずっとついて行くんだから!」
その言葉にズッカはぴたりと歩みを止めた。
首を傾げるキルシェの胸倉を掴み、彼は少しばかり身を屈めて、恫喝するように言った。
「殺すぞ」
「………」
しかし、キルシェは怯むことなく肩を竦めた。
「できる?」
「………」
今度はズッカが黙る番だった。
見詰め合う――といっても片方は相手を睨んでいたが――二人。暫しの沈黙。
やがてズッカはキルシェから手を離し、気をそがれた様子で溜息をついた。
「てめえとはもうヤらねえからな」
そうはいっても、結局三日後にはまた同じ会話を繰り返すのだが。
彼と行動を共にしてひと月。既に五回は聞いた彼のこの台詞に、キルシェは心の中で笑った。


「おい」
「!」
不意に呼ばれ、キルシェは先に歩いていたズッカのもとへと走った。
彼は辺りを見回しながら、背負った棒状の得物を手にする。
「奴らをおびき出す」
その言葉は、つまり彼女に囮になれということだ。
キルシェも当然のように頷くと、足元の枯葉を除けて爪先で自身の周りに円を描く。
何ごとかを口の中で呟くキルシェを横目に、ズッカは丁度いい高さの樹を見つけて枝と葉の中に身を隠した。
「用意できたよ、ズッカ」
「こっちもだ」
絡み合う枝の中で、ズッカは得物である先の尖った鉄の棒を構える。
(来い――獣魔共)
得物を握り直した、その時だった。
「――来た」
キルシェが遠くを見つめながら呟いた。
冷たい風が運ぶ、微かな獣の臭い。
やがてグルル……と喉を鳴らしながら三体の獣魔がキルシェの周りを取り囲むように近付いてきた。
澱んだ眼と曲がった背骨、翼や頭に生えた角はいかにも悪魔といった出で立ちであるが、下級獣魔らしく知能は低い。
どす黒い息を吐きながら、ぼそりぼそりと獣魔たちが呟いた。


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