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淫蕩淫魔ト呪持
【ファンタジー 官能小説】

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淫蕩淫魔ト呪持-11

第五章 迫る、恐怖

酒場の店主が言っていた茸とはこれだろうか。
昨日は気が付かなかったが、薄茶の茸がそこここに生えている。
中には獣魔の血や灰になった骸を浴びて、どす黒く変色しているものもあった。

『呪持ち 悪魔三体ヤミの森』
キルシェの言う悪魔文字での招待状――ヤミの森の、三体の下級悪魔を倒した場所で待っているということなのだろう。
奴はズッカを呼んでいるらしかった。
「ズッカ」
キルシェが背の低い樹に腰を下ろし、彼に声をかける。
「ああ」
彼女の言いたいことが分かったのか、ズッカが頷いた。
彼の額を汗が伝った。
どす黒い空気が流れてくる。
ズッカは息を飲み、鉄棒を握り締めた。

「来てくれたんだね」
空気の重さとは反対に、その声は随分と軽い。
しかしぞくりとズッカの背筋をかける悪寒は、声の主が"それ"であることを告げていた。
「ごめんね、突然呼び出して」
ズッカの剣呑な瞳は、やってきたひとりの少年に向けられた。
浅黒い肌に白い髪をした、紫の瞳の少年だ。
言われなければ、否、この少年に纏わりつく澱んだ空気がなければ、およそ彼が上級悪魔とは誰も思うまい。
「てめえが金貨千の上級悪魔か。五十年ぶりの娑婆はどうだ」
ズッカの言葉に、少年はくすりと笑ってみせる。
「何も変わらないよ。ただ、前よりは骨のある悪魔狩りの男が現れたってことを聞いたかな」
「そいつの名は」
「"呪持ち"」
少年――否、悪魔が言うと同時に、ズッカは得物を悪魔に向かって薙いだ。
風圧が木の葉を巻き上げ、両者の視界を塞ぐ。
ズッカは人間とは思えぬその速さで、悪魔の背後に回った。
「ッ!?」
「ズッカ!」
回った筈だったのだ。
しかし、ズッカの攻撃は完全に読まれていた。
鋭い爪がズッカの右肩を切り裂いた。
「ぐ……」
しかし、これはほんの小手調べだ。
この程度の攻撃にいとも簡単に倒れられては張り合いがない。
ズッカは悪魔と再び対峙した。
「おっと、これは過大評価をしていたかな? 目覚めてみると、周りの悪魔たちがしきりに君のことを噂しているからさ。余程強い悪魔狩りだと思ったんだけど」
「………」
ズッカはまるで自分を小馬鹿にしたような悪魔を睨みつける。
一方で悪魔は余裕のある表情を浮かべていた。
そんな両者を見つめながら、キルシェは懐から一枚の紙切れを取り出した。
「おっと」
悪魔が声を上げた。
「これはこれは、樹の上に淫魔のお嬢さん。その紙切れでどうするつもり?」
「………」
読まれている。何もかも、だ。
彼はキルシェがズッカと行動を共にしていることも知っていた。
だからこそ、ズッカへの招待状をあのような形にしたのだ。
薄っすらと分かってはいたが、キルシェは改めて、この上級悪魔と自分との間にある大きな力の差を感じた。


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